なぜエンジンを「掛ける」と言う? 服を掛けると何が違う? 1300年代から見られる日本語の不思議とは
「エンジンを掛ける」は「声を掛ける」からの派生?
相手が機械か人かの違いはありますが、「声を掛ける」という言葉も、対象に対して働きかけてなんらかの動作をうながすという意味で「エンジンを掛ける」などと似た表現と言えます。
一方「声を掛ける」は1331年頃の『徒然草』にまでさかのぼることができ、非常に古くから用いられていた言葉です。
つまり、「電話を掛ける」「音楽を掛ける」、そして「エンジンを掛ける」という意味での「掛ける」は、すべて「声を掛ける」からの派生であったと考えられます。
逆に言えば、近代化される以前は「機械」というもの自体がほとんど存在せず、働きかけて何らかの動作をうながす対象が人に限られていました。

明治期以降にあらゆる「機械」が登場したものの、当初はそれらを作動させる際の便利な言葉が見当たらず、もともと人に対して用いていた「掛ける」を援用したと考えるのが自然です。
ある意味では、エンジンなどの機械を「擬人化」していたからこその表現と言えます。
実際、当時の人にとってあらゆる機械は未知のものであり、現在でいうAIロボットのような存在だったのかもしれません。
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かつては、エンジンを始動させる際に「クランク棒」を用いるなどして直接的にエンジンを回転させる必要がありました。
この動作が「引っ掛ける」という意味での「掛ける」に近いことから、「エンジンを掛ける」という表現が生まれたという説もあります。
しかし、電話や蓄音機に対しても「掛ける」という表現が用いられていたことを考えると、この説はやや信憑性に欠けるものです。
近年ではプッシュスタート式が主流となっていますが、「対象に対して働きかけてなんらかの動作をうながす」という意味では、始動方法にかかわらず、「掛ける」という表現を用いることは決して間違っていないと言えそうです。
Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明
自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。














