月間販売100台以下の「ニッチな小型車」なぜ売り続ける? スズキが軽だけじゃなく小型車に注力する訳
販売が少ない「イグニス」「エスクード」なぜ残す?
小型車にも力を入れるスズキですが、すべてのモデルが堅調に売られているわけではありません。
2022年にもっとも多く売られたスズキの小型車は、全高が1700mmを上まわるボディにスライドドアを備えた「ソリオ」で、1か月平均登録台数は3466台。ライバル車のトヨタ ルーミーは、発売から約6年を経過しながら1万7436台に達します。
商品力は2020年に登場したソリオが高いですが、売れ行きはルーミーの約5分の1となっています。
スズキの小型車の販売2位は「スイフト」です。2022年の1か月平均が2093台で、約半を1.4リッターターボを搭載する「スイフトスポーツ」が占めています。3位は「ジムニーシエラ」で1か月平均が1485台、4位は「クロスビー」で同1026台でした。
1位から4位以外の小型車は、2022年の1か月平均登録台数が1000台以下です。ランディはノアをベースにしたOEM車だから除くとしても、「イグニス」は1か月平均が166台、「エスクード」は98台と少ないです。
イグニスとエスクードは、ボディがコンパクトなSUVです。ライバル車はトヨタ「ヤリスクロス」などとなっており、人気のカテゴリーですから、もう少し多く売れても良いでしょう。
販売が芳しくない理由を販売店に尋ねると、以下のように説明されました。
「今のコンパクトカーでは、ソリオのように車内の広い車種が人気なので、ボディがコンパクトで荷室が狭いイグニスは個性派です。
またエスクードは、ハイブリッド専用車になって価格が高くなりました。エスクードとイグニスは宣伝もあまり行われず、知名度が低いです」
イグニスは全長を3700mmに抑えたコンパクトカーで、運転感覚が適度に機敏です。最低地上高は180mmで、悪路のデコボコも乗り越えやすいですが、販売店スタッフが言うように荷室は狭いです。
しかも全高は1660mm-1690mmですから、立体駐車場を使いにくいというという事情もあるでしょう。
エスクードは2022年4月からハイブリッド専用車になり、駆動方式は4WDのみ、グレードも1種類に絞られ、価格は297万円。ヤリスクロス(ハイブリッドZ・E-Four)の283万7000円よりも価格が高く設定されています。
WLTCモード燃費は、エスクードは19.6km/Lですが、ヤリスクロスハイブリッドZ・E-Fourは27.8km/L。エスクードのトランスミッションは6速のAGS(オートギヤシフト)で、以前に比べると改善されましたが、ヤリスクロスハイブリッドに比べると滑らかさに欠けます。
ソリオとスイフト以外は苦戦しているスズキの小型車ですが、それでも販売を続けているのは、スズキが小型/普通車を1年間に10万台以上登録する目標を掲げているからです。
イグニスとエスクードを合計すると2022年の登録台数は3000台を上まわり、そこにジムニーシエラとクロスビーを加えると3万台を超えます。
スズキは海外を中心に販売される小型車を国内に投入することで、毎年10万台以上の小型/普通車を販売しています。
これらの小型/普通車を扱い慣れていれば、軽自動車だけでは国内販売が成り立たなくなった時でも、迅速にコンパクトな車種へのシフトを進められます。
つまりイグニスとエスクードのラインナップは、なるべくコストを費やさずに小型車を充実させるにはどうすべきか、国内販売の将来を考えた結果なのです。
また2022年におけるメーカー別国内販売ランキングは、スズキがトヨタに次ぐ2位でした。仮に小型/普通車の10万台がなければ、スズキの国内順位はダイハツに次ぐ3位になります。スズキの国内市場を固める上でも、小型/普通車は大切な存在なのです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
コメント
本コメント欄は、記事に対して個々人の意見や考えを述べたり、ユーザー同士での健全な意見交換を目的としております。マナーや法令・プライバシーに配慮をしコメントするようにお願いいたします。 なお、不適切な内容や表現であると判断した投稿は削除する場合がございます。