ホンダの「軽」なぜ「N-BOX」に人気が集中? N-WGNやN-ONEじゃダメ? 格差が生まれた要因は?

「N-BOXを買えば間違いない」という認識も

 過去を振り返ると、スライドドアは1990年代の中盤から急速に普及を始めたミニバンに採用されました。そのため今の35歳以下の人は、幼い頃からスライドドアに親しんで育った人も多いです。この世代では、背の高いボディとスライドドアがクルマの基本形になっています。

 そしてこの世代の人達は、現在は子育て中の人が多く、子どもを抱えた状態でクルマに乗り降りするにはスライドドアが便利なため、N-BOXの売れ行きも伸びました。

2022年9月のマイチェンで“迫力顔”に変更された「N-WGN カスタム」
2022年9月のマイチェンで“迫力顔”に変更された「N-WGN カスタム」

 つまり国内販売の実質的なベスト3車が、先に挙げたN-BOX、ルーミー、タントになり、少し背の低いボディにスライドドアを装着したダイハツ「ムーヴキャンバス」やスズキ「ワゴンRスマイル」が好調に売れる背景にも、今の子育て世代の根強い需要があるのです。

 販売店では「独身のお客さまを含めて、N-BOXに絞って購入される人が増えました。N-WGNやN-ONEと迷うことは少ないです」と述べています。N-BOXがホンダの軽自動車選びのスタンダードになったわけです。

 またN-BOXは、2011年に発売された先代型の売れ行きも絶好調だったことから保有台数が多く、現行型は先代型からの乗り替え需要も視野に入れ、基本路線を踏襲するフルモデルチェンジを行ったため、ますます安定した売れ行きに至っています。

 このようにN-BOXが定着すると「軽自動車はN-BOXを買えば間違いない」「ホンダ車ならN-BOXしかない」という認識も生まれ、売れ行きが一層伸びます。N-WGNやN-ONEは、特別な理由がないと購入されにくいです。

 メーカーも本音をいえば、国内販売のバランスをもう少し整えたいのですが、「N-BOXの好調な売れ行きは止められません。N-WGNはN-BOXに比べて実用燃費が優れ、価格も割安ですが、N-BOXだけが売れてしまうのです」と述べています。

 価格は、前述の通りN-ONEは割高ですが、N-WGNは割安に抑えました。N-WGN・Lでは、LEDヘッドランプはオプションですが、サイド&カーテンエアバッグなどを標準装着して139万9200円です。N-WGNは床が低く、荷室を上下2段に使えます。後席の下には、幅が約1mのワイドなトレイも備わり、傘や靴が収まります。

 N-BOX・Lの価格は157万9600円ですから、N-WGN・Lは、スライドドア以外の装備水準がほぼ同じで約18万円安いです。

 それでも多くのユーザーがN-BOXを選ぶのは、車内の開放感や質感には実用性を超えた魅力があり、定番の選択肢になっているからです。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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