「ハイブリッド」や「EV」推しの日産が新型ミニバン「セレナ」にあえて「ガソリン車」も残した事情とは
ライバル勢で唯一、新型セレナが5ナンバー車も用意する事情
ライバル車のトヨタ「ノア」やホンダ「ステップワゴン」も、価格の割安な標準ボディとノーマルエンジンの組み合わせを用意していますが、ボディは全車が3ナンバーサイズです。その点でセレナの標準ボディは、先代型と同じく5ナンバーサイズで残しています。
なぜライバル車は現行型で3ナンバー専用車になったのに、セレナの標準ボディは5ナンバーサイズなのでしょうか。この点も開発者に尋ねました。
「日本では運転のしやすさから5ナンバー車を選ぶお客さまが多いです。またコンパクトカーからミニバンに乗り替えるお客さまも5ナンバー車を好まれます。そこでセレナも標準ボディを5ナンバー車にしました」
ここには他社とは違う事情もあります。日産には、商用車ベースの「NV200バネット16X-3R」(3列シート/7人乗り)を除くと、トヨタ「シエンタ」やホンダ「フリード」に相当する5ナンバーサイズのコンパクトミニバンがないことです。
セレナがシエンタやフリードの需要までカバーしなければならないため、標準ボディを5ナンバー車として残しました。
その一方で新型セレナには、価格が479万8200円に達する最上級グレードの「e-POWERルキシオン」もあります。ノーマルエンジンのXに比べて200万円以上も高い価格設定となっています。
e-POWERルキシオンの価格が高い直接の原因は、ハンドルから手を離しても運転支援が続く「プロパイロット2.0」を標準装着したことです。e-POWERルキシオンの価格は、e-POWERハイウェイスターVよりも111万2100円高く、その内の約47万円は、プロパイロット2.0の対価で占められます。
それにしても、なぜセレナは、価格が500万円近い充実装備のe-POWERルキシオンを用意したのでしょうか。その理由は上級Lサイズミニバンとなる「エルグランド」の販売低下です。
かつてのエルグランドはLサイズミニバンの人気車で、初代モデルは1998年に1か月平均で約4600台を登録しました。ところが最近はフルモデルチェンジがおこなわれておらず、現行型は発売から12年以上を経過。登録台数も下がり、2022年の1か月平均は200台以下です。1998年の約4%まで落ち込みました。
こうなると次期モデルへのフルモデルチェンジも厳しくなることが予想されますが、現行モデルの発売から10年以上を経過すると、新型への乗り替えを希望していたユーザーも、ほかの車種を購入します。
日産の販売店からは「エルグランドから『アルファード』などに乗り替えるお客さまが増えており、これを食い止められる後継車種が欲しい」という話が聞かれていました。
このニーズに応えたグレードが新型セレナe-POWERルキシオンというわけです。価格は500万円近いですが、エルグランドで人気の高い直列4気筒2.5リッターエンジンを搭載する「250ハイウェイスタープレミアム」も455万円8400円です。
セレナはエルグランドよりもボディは小さいですが、e-POWERやプロパイロット2.0、カーナビなどが備わり、商品力はエルグランドを大幅に上まわります。機能と装備が大幅に向上するので、エルグランドからの乗り替えも提案しやすいです。
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今の日産には、コンパクトとLサイズのミニバンが欠けており、セレナがすべてを背負う必要があります。そこで新型セレナでは、5ナンバーサイズの標準ボディやノーマルエンジン、価格が500万円近いe-POWERルキシオンを設定しました。
ノートが上質なノートオーラ、スポーティな「ノートオーラNISMO」、SUV風の「ノートAUTECHクロスオーバー」を用意するのと同様に、新型セレナも今後、アウトドアで使いやすいSUV指向、あるいはハイウェイスター以上に存在感の強いスポーティ指向など、さまざまなバリエーションを加える可能性があるのではないでしょうか。
海外市場を重視して、国内で販売する車種を減らした日産には、1車種のなかのグレード構成を工夫してユーザーの選択肢を増やす宿命があるのです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
やっぱりルキシオンはエルグランドの事実上の後継車種なんだな
アイドリングストップも外して更に安くして欲しい。