新型「クラウン」セダンはFRじゃないとダメ? 3種のSUVを新設定するトヨタの狙いとは?

セダンだけは後輪駆動を継続する?

 そしてトヨタらしい周到さは、4種類のボディを用意したことにも表われています。「クラウン クロスオーバー」、「クラウン スポーツ」、「クラウン エステート」、「クラウン セダン」の4種類があり、ボディが1、2種類では販売面で失敗する心配もありますが、4種類をそろえれば売れ行きを伸ばせる可能性も高くなります。

トヨタ新型「クラウン セダン」
トヨタ新型「クラウン セダン」

 例えばかつてのマークXは、2007年に3列シートの「マークXジオ」を加えて2種類のボディを用意しましたが、マークXジオは3列目が狭く価格は割高で販売を低迷させました。結局は廃止されており、クラウンでは同じ失敗は許されません。

 そこで4種類のボディをそろえましたが、保守的なイメージのクラウンにSUVを設定して堅調に売れるのか、という疑問もあります。この判断では、「カローラ」が参考になります。

 カローラもクラウンと同じく保守的なクルマですが、SUVの「カローラクロス」が国内市場ではシリーズ全体の45%を占めています。保守的な車名にSUVを組み合わせても、売れ行きを伸ばせることが実証されたので、クラウンもSUVに踏み切れました。

 それならクラウンは以前とはまったく別のクルマになったのか、といえば、継続性も持たせています。

 クラウン クロスオーバーの外観はSUV風ですが、ハリアーや「RAV4」のような5ドアボディではありません。ボディの後部に居住空間とは別のトランクスペースを備えたセダンです。

 セダンでは後席とトランクスペースの間に骨格があるため、ボディ剛性を高めやすく、走行安定性と乗り心地で有利になります。

 居住空間とトランクスペースが切り離されるため、後輪が路上を転がるときに発生する騒音も乗員に伝わりにくいです。

 クラウンクロスオーバーは、走りと快適性を悪化させないために、あえて荷室の使い勝手が悪くなるセダンボディを採用しました。

 駆動方式も同様で、クラウンクロスオーバーはコスト低減も視野に入れ、前輪駆動のGA-Kプラットフォームを使っています。従来型の後輪駆動に比べて走りの欠点が生じないように、全車に4WDを搭載しました。2WDはありません。

 クラウンクロス オーバーの全幅は、GA-Kプラットフォームを採用した影響もあり、先代型の1800mmから1840mmに拡大されました。

 街中などで運転しにくくなる心配もあるため、後輪操舵のDRSを全車に搭載。最小回転半径は5.4mに収まり、従来型の5.3~5.7mと同等です。開発者は「DRSを装着しないと、最小回転半径は5.8m前後に達します」と述べました。

 このようにクラウン クロスオーバーは、クラウンの車名を残すべくSUVに発展させながら、セダンの従来型と比べたときに欠点が生じないよう配慮されています。

 同様のことが4種類のボディにも当てはまります。クロスオーバー/スポーツ/エステートの3種類は前輪駆動ですが、セダンだけは後輪駆動で残す可能性が高いです。

 その根拠は、横方向から撮影した写真です。

 SUVの3タイプはフロントピラー(柱)と前輪の間隔が接近している前輪駆動の形状ですが、セダンだけは従来型と同じく間隔が離れています。

 開発者は駆動方式の明言は避けましたが、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)については「クロスオーバーとエステートは2850mm、スポーツは操舵感を機敏にするために2770mmで、セダンは3000mm」と述べています。

 前述の通り後輪駆動では前輪が前寄りに配置されてピラーとの間隔も広がるため、ホイールベースも大幅に長くなりました。

 開発者は新型クラウンのフルモデルチェンジについて「従来型のマイナーチェンジを計画していたときに急遽決定されたため、開発期間も約2年半と短かったです。クロスオーバーは発表しましたが、ほかの3タイプは開発途上にあります」と述べています。

 販売店も「セダンのことはまったくわかりません」とのことです。

 そのため断言はできませんが、外観を見る限り、セダンは後輪駆動か、これをベースにした4WDで登場するでしょう。

 この背景にあるのも、クラウンの存続とブランドイメージの維持です。クラウンが前輪駆動ベースのSUVだけになると、車名は存続できても、そのイメージは時間の経過に伴って「ハリアーの上級車種」へ埋没していきます。今後もクラウンがフォーマルな位置付けを守るには、セダンの存在は不可欠でしょう。

 また今のクラウンの売れ行きは、前述の通り最盛期の約10%まで落ち込みましたが、この内の50%以上を社用車として使う法人ユーザーが占めています。法人需要は手堅く、定期的な乗り替えも見込めるため、セダンを廃止できません。

 以上のようにクラウンは、その車名を守るため、主力はSUVに変更して新規需要を獲得する一方、後輪駆動のセダンも残して従来のユーザーも維持し、4種類のボディをそろえて海外でも販売する一大プロジェクトに発展しました。

 果たしてクラウンという車名は、そこまでして守るべきものなのなのでしょうか。4種類のボディをそろえる開発をおこなって、ユーザーに現実的な利益をどの程度与えてくれるのでしょうか。

「車名とは何か」を考えさせられる興味深いフルモデルチェンジです。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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1件のコメント

  1. セダンをFR化したいならFF横置きベース4WDからフロント駆動を外してしまえば、いとも簡単に作れるw
    何もコストが掛かる手法でもあるまい!
    プラットフォームがFF用であろうが簡単にFR化出来るはずだ!今からでも遅くは無い。
    クラウンセダンはFRで出して貰いたいw

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