なぜトヨタは姉妹車「ノアヴォク」を両方存続させた? 新型では「ノア」を多く売りたい事情とは
トヨタが全店舗で全車を扱う弊害とは?
新型ヴォクシーの受注台数が多い背景には保有台数の違いもあり、先代型ヴォクシーが好調に販売されたこともあって新型への乗り替えも活発におこなわれています。
新型ノアヴォクの売れ行きについて、販売店は次のようにいいます。
「売れ行きは今でも新型ヴォクシーが好調ですが、受注開始の頃に比べると新型ノアの比率が高まっています。
先代型では、若いお客さまはヴォクシー、ファミリー層はノアという売れ方でしたが、新型では若い人もノアを選んでいます」
新型ノアのフロントマスクはエアロを含めて先代型を発展させた印象ですが、新型ヴォクシーはかなり飛躍しました。新型ノアは現在のユーザーが対象で、新型ヴォクシーは将来の好みを先読みしているようにも受け取れます。
その意味で新型ノアの売れ行きが伸びている現状は、トヨタの狙い通りといえるでしょう。
「ノアをもっと多く売りたい」というトヨタの思いは、価格からもわかります。新型ノアヴォクの価格をエアロ仕様同士で比べると、新型ノアが5万円から7万円安いのです。
新型ヴォクシーはクリアランスランプをLEDヘッドランプから独立させるなど凝ったデザインを採用したものの、新型ノアより5万円から7万円が上乗せされるのは高すぎるでしょう。
この金額をオプション価格に置き換えると、災害時にも役立つ100V・1500W電源コンセント(4万4000円)、右側スライドドア(6万2700円)に相当し、予算が同額の場合、新型ノアのエアロ仕様は新型ヴォクシーに比べて実用性の高いオプション装備をひとつ多く装着できることになります。
これも新型ノアを積極的に売り、販売比率を60%に高めるための仕掛けなのです。
それならどうして、標準ボディを用意したり価格を割安に抑えてまで、新型ノアを多く売りたいのでしょう。
逆にいえば、なぜ新型ヴォクシーの販売を抑えたいのかということですが、この背景には全店が全車を扱うことの弊害が関係しているようです。
以前のように販売系列によって取り扱い車種が区分されていると、販売店は自社の扱う車種に力を入れることから、売れ行きも偏りにくいです。
かつてのネッツ店は「ヴェルファイア」を大切に販売しており、登録台数も姉妹車の「アルファード」に比べて多かったのです。
ところが現行型のアルファードとヴェルファイアがマイナーチェンジを実施し、アルファードのフロントマスクが派手になり、2020年5月に全店が全車を扱う体制に変わると、販売格差が急速に拡大し始めました。
すべての店舗でアルファードが好調に売られ、以前はヴェルファイアを専門に販売してきたネッツ店でもアルファードに乗り替えるユーザーが増えたのです。
その結果、ヴェルファイアの販売は激しく落ち込み、グレードも絞られ、2021年(1月から12月)の登録台数を見るとヴェルファイアはアルファードの7%と大きな格差が生じました。
全店が全車を扱うと、人気車は売れ行きを一層伸ばし、不人気車は大幅に落ち込みます。
タンクを廃止してルーミーを残すような戦略なら都合が良いのですが、ノアヴォクのように姉妹車関係を存続させて大量販売を狙うときは、全店全車の取り扱いが裏目に出てしまいます。
姉妹車を残して多様化するユーザーニーズに応えるためには、バランスの良い売り方が求められるのです。
そこでノアヴォクは、先代型、新型ともにヴォクシーの販売比率が60%と高いのに、目標ではノアを60%に設定して、価格の割安度でも差を付けました。
トヨタは長年にわたり販売系列を生かした売り方をしてきましたが、合理化のために全店/全車併売に踏み切りました。
その結果、販売格差の弊害に悩まされ、ヴォクシーとノアの販売不均衡を解消すべく、フロントマスクや価格設定を工夫しているのです。
これは小型/普通車の新車市場に占める割合が50%に達するトヨタならではのチャレンジでしょう。
日産やホンダの販売網もかつては系列化されていましたが、全店全車併売に移行。この影響で車種ごとの販売格差が広がったのですが、両社は是正させる措置を講じませんでした。
その結果、日産が2021年に国内で新車として販売したクルマの39%が軽自動車になり、そこに「ノートシリーズ」と「セレナ」を加えると日産車全体の72%に達します。
ホンダは国内新車販売台数の53%が軽自動車で、「フィット」「フリード」「ヴェゼル」を加えると84%になるなど、車種ごとに著しい販売格差が生じています。
このような少数の車種に依存する国内販売体制は危うく、販売総数も下げてしまいます。
全店全車併売による販売格差と、売れ行きの低下に向けたトヨタの危機意識の違いが、新型ノアヴォクには明確に表現されているというわけです。
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- トヨタ ノア
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- 新車販売価格:267.0~389.0万円
- ボディタイプ
- ミニバン
- 販売年月
- 2022年1月~生産中
- トヨタ ヴォクシー
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- 新車販売価格:309.0~374.0万円
- ボディタイプ
- ミニバン
- 販売年月
- 2022年1月~生産中
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
5ナンバーはノア3ナンバーはヴォクシーで差別化すべきだった
ノアから5ナンバーが消えた時点でヴォクシーはもはや存在意義がなくなった
珍しく日産の販売比率に言及しているね
この人いつもホンダの販売比率にしか言及しないのに
販売比率の少ないエスクァイアは廃止統合するも
ヴォクシーユーザーは多いのでノアに統合したら他社に流れる可能性があるから
ノアをより派手にして取り込みつつも
保険としてヴォクシーも存続させたという事でしょう。
今世代で比率逆転してノアがメインになれば次はノアに統合するつもりなので
ノアを主体に売り込む様に販売店には指示出してるんじゃない?
ルーミーは名は統一したが、タンク顔も実質グレードの一部として残してるし
販売状況を見据えながらネームバリューを考え統合するか段階的に判断してるんだろう。