TRD/NISMO/STI/MUGEN…各社自慢のチューニングカーに一気乗り!ワークスチューニンググループ合同試乗会に潜入
筆者が考えるワークスチューナーの役目とは?
続いて「MUGEN」です。実はホンダとの資本関係はありませんが、新車開発を並行、ディーラーで購入可能…とワークスチューナーと同格の存在と言っていいと思います。
古くからモータースポーツのイメージが強く硬派なアイテムも用意されていましたが、最近はドレスアップ系アイテムが中心でスポーツサスペンションをはじめとする機能系パーツは少なめ。ヴェゼル/シビックも精悍なエアロパーツを身に纏っているだけに、何とも勿体ないです。運転支援デバイスの影響を踏まえての事なのは解っていますが、そこに踏み込んでいくのがワークスチューナーの役目だと、筆者は思っています。
ただ、シビックはパフォーマンスダンパーや鍛造アルミホイール(FS10)、スポーツマフラー、スポーツブレーキパッド/スリットローターなど、機能面のアイテムを豊富に用意。
特に鍛造アルミホイールは純正に対して一本あたり4kgの軽量設計で、まるでボディサイズがコンパクトになったかのような軽快でキレのいいフットワークやステアフィールの直結感アップ、革靴からスニーカーに履き替えたような足の動きの軽やかさなど、どちらかと言えば“洗練”方向にアップデートされていますが、個人的にはMUGENの立ち位置を思うと、もう少しヤンチャな方向性でもいいような気がしました。
関係者に話を聞くとサスペンションの検討も行なっている……と言うことなので、是非とも頑張って欲しいです。
そして最後は「TRD」です。長きに渡ってトヨタのワークスチューナーとして名をはせてきましたが、2017年にトヨタが「GR」を発足以降は市販車用アイテムのビジネスは縮小傾向、現在はブランド名(トヨタ・レーシング・デベロップメント)の通り、モータースポーツの開発・サポートが主です。
今回は国内ラリーの入門カテゴリーとトップカテゴリーの間に位置する地方戦「TRD RALLY CUP」でグラベル/ターマック共用のサスペンション「TRD CUP-SPECダンパー」装着のヤリスと、オーストラリアで開催されているオフロードレース「TFDR(Tatts Finke Desert Race)」のEX4クラスで優勝したハイラックスの2台になります。
ヤリスは適度なストローク感と姿勢変化を抑えた絶妙なセットアップで、初心者には安心感、中・上級者にはコントロール性の高さが感じられる味付けでした。
今回はターマックでの試乗でしたが、タイヤのグリップだけに頼らない走りはグラベルでも強い武器になってくれそうな予感がしました。個人的には地方選だけでなく、入門編であるTGRラリーチャレンジでも使えるといいな…と。良い物は皆で使う、ここは是非ともカテゴリーの垣根を越えて欲しい部分です。
ハイラックスはタイ仕様のスマートキャブがベースですが、中身は別物!! エンジンは直4-2.8Lターボでノーマルの177ps/450Nmから260ps/700Nmに出力向上。トランスミッションは6速ATでむしろMTよりも頑丈だそうです。駆動方式は当然4WDですが、プラド用のシステム(フルタイム式)に変更。シャシーは大改造されており、ホイールベースはノーマル比185mm短縮、リアサスはリーフリジットから4リンクに変更。サスペンションはストロークがタップリの専用品で、連続した波状路でも足だけ動いてキャビンはフラットだそうです。
少しだけステアリングを握らせてもらいましたが、エンジンは力強いだけでなくどこから踏んでも鬼トルク。ハンドリングはタイヤのグリップに頼った走りをするとアンダーステアしかでませんが、サスペンションストロークを活用しながら前荷重や後荷重をシッカリ意識した走りを心掛けると、2.2トンの車両重量を感じさせないくらいキビキビ&グイグイと曲がっていきます。まさにドライビンの基本に忠実…というマシンでした。
ただ、残念なのはこの2台のノウハウを活かした市販パーツが存在しない事です。TRDの存在意義はモータースポーツと量産車の架け橋だと思っていますが、現在はそのバランスが少し崩れてしまっているのも事実です。もちろんGRとの関係性など様々な課題がある事も理解していますが、TRDのブランド力は今でも健在なので、上手に共存していって欲しいと願っています。
このように、一口にワークスチューナーと言っても各ブランドにより目指す「味」、「方向性」は異なります。
ただ、その想いは共通だと思っていて、「チューニングの『楽しさ』、『重要性』を、より多くの人に『気軽』に『安心』して味わってもらう事だと思っています。その部分について筆者は異論ありませんが、声を大にして言いたい事もあります。
それはワークスチューナーならではの“強み”が欠けている事です。メーカーに最も近い存在だからこそ、サードパーティでは真似のできない部分に踏み込んでほしい所です。それは何か? 例えば、運転支援デバイスや制御デバイスとの共存や、電動パワートレインのチューニングなどなど…。
この辺りは非常にセンシティブなので自動車メーカーとタッグを組んで進めていく必要があります。もちろん、できない理由がたくさんあるのは重々承知していますが、やらなければいけない領域だと思っています。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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