なぜトヨタ「ハイラックス」のみ現存? SUV人気もピックアップは減少! 一方「軽トラック」は定着する理由

日本では「1台2役」である必要はなかった

 ただ、いくら軽トラックが日本が世界に誇るべきユーテリティートラックとしても、やはり米国だけで年間200万台以上販売されるピックアップトラックのニーズを、軽トラックだけで満たしているとは考えにくいのも事実です。

 そもそも、ピックアップトラックの大きなメリットは、キャビンと分離した大きな荷台を持っていることです。

 この「キャビンと分離した」という部分がポイントであり、これはすなわち、泥や水滴が付いたものでも気にせずに載せられるということを意味しています。この点がSUVやセダンなどの乗用車と大きく異なる部分です。

 一方、ピックアップトラックには、大人4人が快適に乗車できるというメリットもあります。

 実際に、米国で人気のピックアップトラックは、乗用車と同等の快適装備を持っており、この点が日本でいうところのトラックと異なります。

 つまり、ピックアップトラックの本質的なメリットは、トラックとしての利便性と乗用車の快適性を兼ね備えた、「1台2役」のクルマという点ということができます。

 日本で販売されている乗用車の多くは、泥や水滴の付いたものを気にせずに載せることができませんし、軽トラックには大人4人が快適に乗車できるだけの装備がありません。

 逆にいえば、日本ではそのようなクルマのニーズが少ないということになりますが、その理由はどこにあるのでしょうか。

 これを解き明かすには、クルマそのものの話ではなく、日本の文化的・社会的事情を考える必要があります。

 当然、現在の日本でも、「泥や水滴の付いたものを気にせずに載せる」というニーズや、「大人4人が快適に乗車する」というニーズはあります。

 ただ、前者はいわゆる通常のトラックが、後者は一般的な乗用車や軽自動車が、そのニーズを満たしています。つまり、それらを一緒に必要としている人が少ないといえます。

 その理由は、日本がすでに経済的に成熟国家であり、社会的なインフラがしっかり整っている国であるためと考えられます。

 つまり、「泥や水滴の付いたものを気にせずに載せる」というニーズは、専門の業者がユーザーに代わっておこなったり、あるいはそのためだけに特化したクルマを用意しておこなう仕組みが整っているからです。

 具体的にいえば、家庭から出る日々の廃棄物や粗大ごみは、ゴミ収集車によって定期的に回収される仕組みがあるため、クルマで廃棄物処理施設へと運ばなければならないユーザーはそれほど多くありません。

 また、泥や水滴の付いた農機具などを日常的に運搬する必要のあるユーザーは、それ専用の軽トラックなどを家族で移動するためのクルマとは別に保有している場合が多く、1台で2役を担う必要がありません。

 このように、「分業制」が成立しているのが、日本という国の特徴です。

定義によってはピックアップトラックといえる軽トラック(画像はスズキ「スーパーキャリイ」)
定義によってはピックアップトラックといえる軽トラック(画像はスズキ「スーパーキャリイ」)

 一方米国は、経済的には成熟した国家であるものの、その広大な国土から日本ほど社会的なインフラが整っていない地域もあります。

 米国のなかでもピックアップトラックが売れる地域は限られており、テキサス州などの南部の農耕が盛んなエリアで圧倒的に販売台数が多いのが実情です。

 こうした地域は、都市部をのぞいて社会的なインフラが整っていない場合も多く、また、買い物などで都市部まで長距離を移動する必要があることから、汚れたものの積載性と快適性の両方のニーズを満たすことが求められます。

 もちろん、若者の間では「イカツイ」フロントマスクを持ったピックアップトラックに乗ることが一種のステータスとなっているという側面も人気の理由のひとつではありますが、本質的にいえばそうしたニーズがあるということだと考えられます。

 東南アジアの場合も、2000年代に入って急激に経済成長した新興国ということもあり、道路整備などが進んでいない地域も少なくなく、また、地方部ではユーザー自身が農作業や家の補修などをおこなう場合も多いことから、やはり汚れたものの積載性が求められます。

 一方、経済的事情から役割に合わせて複数台を保有することが難しい場合も多く、その点で1台2役のピックアップトラックが重宝されると考えられます。

 日本同様、ピックアップトラックの販売がほとんどない欧州も、基本的には日本同様分業制が成立していることが「ピックアップトラック不毛の地」である大きな理由のひとつであるといえます。

※ ※ ※

 自動車業界では「道がクルマをつくる」という格言があります。つまり、その国や地域の社会的事情によって、クルマの形や内容が変化するという意味です。

 米国(の一部)や東南アジアでは1台2役のピックアップトラックが必要な土壌が育まれてきましたが、現代の日本では、それぞれの役割に特化したクルマの方が求められているということでしょう。

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Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明

自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。

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