一周まわってカッコいい!? 「ブサイク」といわれた個性あふれるクルマ3選

MoMAに展示されたブサイクなクルマとは

 1962年6月27日、アルファ ロメオのホームコースとも称されるモンツァ・サーキットにて発表された「ジュリアTIベルリーナ」。

 発表された当初はアルファの運命を変える大ヒット作となった前任モデル「ジュリエッタ」の上級モデルとして併売されていた。それは「ジュリエッタの姉」を示すネーミングにも示唆されていたのだが、実像はやはり「ジュリエッタ・ベルリーナ」の後継車である。

初代ジュリアは警察やカラビニエリ(軍警察)のパトカーとしても大活躍(C)武田公実
初代ジュリアは警察やカラビニエリ(軍警察)のパトカーとしても大活躍(C)武田公実

●醜いジュリア:アルファロメオ初代「ジュリア」

 組み合わされたエンジンは、ジュリエッタ用の直列4気筒DOHC1290ccを1570cc・92psまでスケールアップしたもの。ジュリア用としては新たに5速トランスミッション、4輪ディスクブレーキ(最初期モデルを除く)など、ジュリエッタ以上に贅沢な装備が盛り込まれた。

 これは当時のファミリーサルーンの常識からすれば、充分以上に優秀といえる内容であり、持ち前の高性能を生かしてモータースポーツでも活躍した一方、イタリアではパトロールカーとしても大活躍した。

 加えて、オリジナル版「ミニミニ大作戦(1969年・英)」や「フェラーリの鷹(1976年・伊)」など、当時のイタリアを舞台としたカーアクション映画では、いわゆる「負けキャラ」パトカーとして、貴重なバイプレイヤーの役割も果たしていた。

 一連のジュリア・ベルリーナはボクシーなスタイリングから、とくにわが国では「醜いジュリア」なる、ひどいニックネームで呼ばれたりもしたものの、実は本格的なエアロダイナミクスが導入された世界最初のサルーンの1台であることは、史実として知られている。現在でこそ自動車デザインにおける必須条件となっている風洞実験がおこなわれたという事実も、1960年代初頭の量産セダン開発では、まだまだ珍しいことだったのだ。

 しかし理詰めで創られたはずのルックスが、結果として強烈な個性を湛えていたことから、母国イタリアやヨーロッパのみならず、世界中でコアなファンを持つことになるのだから、クルマというのは分からないもの。

 1974年には、ノーズ周辺を中心とするフェイスリフトによって、多少なりともボディデザインのアクを弱めた「ヌォーヴァ(新)ジュリア」に移行するが、現在のエンスージアストにとってはもの足りないのか、クラシックカーマーケットにおける相場価格は「醜いジュリア」に遠く及ばないのが現状なのだ。

 ところで「醜いジュリア」という言葉は日本語としてはしばしば聞くものの、たとえば英語の「Ugly Giulia」や母国イタリア語の「Brutta Giulia」というニックネームで呼ばれる事例は聞いたことがない。

 もしかしたら、初代ジュリアを醜いと思っているのは、我々日本のファンだけと考えてしまう一方で、この「醜いジュリア」をイタリア人の次に愛しているのが日本人であることもまた、間違いのない事実と確信しているのである。

フィアット2代目ムルティプラの強烈に個性的なフロントビュー
フィアット2代目ムルティプラの強烈に個性的なフロントビュー

●世界一醜いクルマ:フィアット2代目「ムルティプラ」

 1998年にフィアットからデビューした「ムルティプラ」は、1956年に登場した「600ムルティプラ」の名前と精神を引きついたMPVミニバン。超個性的なルックスも、2世代に共通するものだった。

 元祖ムルティプラは、2ドア4座席のフィアット「600」をベースに全高を約20cmかさ上げして、運転席・助手席をフロントアクスルの上に置く「フォワードコントロール」とするかたわらで、ルーフをフロントエンドまで延長して、シートレイアウトの3列/6座化を実現していた。

 一方2代目ムルティプラは、3995mmの全長に1875mmの全幅を組み合わせて、そのワイドボディを生かした3人掛け2列シート配置により、大人6名が快適に移動できる空間を確保。結果として得られた広いグラスエリアによって室内は明るく、車内のそれぞれ独立したシートは大柄な人でもゆったり座ることができた。

 全長をことさら短く抑えたのは、ヨーロッパのカーフェリー運航会社が、日本と同じく全長4mを境として大きく跳ね上がる料金体系としていたからといわれている。

 また、前後とも横3人の乗員のショルダースペースを得るために、左右のサイドウィンドウは切り立った絶壁状としたことから、グラスエリアはまるで巨大な水槽を乗せたような独特のスタイルとなった。

 しかし、2代目ムルティプラの強烈きわまる個性を決定的なものとしたのは、ノーズセクションのスタイリングであろう。ヘッドライトは通常のノーズ先端にロービームを配置。ウインドシールド下にハイビームを置くというユニークなレイアウト。これはボンネットを低めて前方の視界を良好なものとするための方策だったそうだが、結果としてほかのどのクルマとも似ていない、特有のスタイルを形成することになった。

 デザインワークを主導した「フィアット・チェントロスティーレ(デザインセンター)」のロベルト・ジョリート氏は、おそらく確信犯的にこのデザインを推し進めたと思われる。果たしてムルティプラのデザインは酷評をもって迎えられ、イギリスのコラムニストからは「世界でもっとも醜いクルマ」「このクルマは実際に乗るべきものだ。なぜなら車内にいる限りは、醜い外観を目にしなくて済むから」という辛辣なジョークも語られていたという。

 そして、英国BBCの人気TV番組「Top Gear」が開催していた「Top Gearカー・オブ・ザ・イヤー」2000年版では「もっとも醜いクルマ(Ugliest Car)賞」にも選出され、不細工なクルマとしての地位を確立したのだが、その一方で1999年にニューヨーク近代美術館(MoMA)が開催した企画展「Different Roads – Automobiles for the Next Century」に展示される。すなわちモダンアートとしての側面が認められるなど、まさに賛否両論だった。

 2004年におこなわれたマイナーチェンジでは、フロント回りが大幅にリファインされ、独特の個性はやや薄められてしまったが、その中身は変わることなく2010年まで生産された。

 しかしアルファ ロメオ・ジュリアの事例と同じく、いわゆる「エンスー」と呼ばれる人種の間で後期型ムルティプラの人気がさっぱりなのに対して、前期型ムルティプラはヤングタイマー・クラシックとして一定の評価を得ているのは、やはり個性を愛するファンが少なくないということであろう。

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