ロールス・ロイスのBEV「スペクター」誕生! 400年分の250万キロ極限走行テストとは

2023年第4四半期の正式デビューを目指し、これから400年分のテストを敢行予定

 ロールス・ロイスのひとつ目の「R」、チャールズ・ロールス卿は1900年4月に「コロンビア」と名付けられた初期の電気自動車を体験し、電気駆動こそが理想であると公言していたという。

 加えてもう一人の「R」、ヘンリー・ロイスも、自動車の電動化には浅からぬゆかりがあった。もともと電気工学のエンジニアとして、19世紀末には自身の興した電気設備メーカー「F.H.ロイス」社を成功させていた彼は、自動車の原動機としてガソリンエンジンが定着する以前、複数が勃興していた電動車メーカーのひとつに、モーターを供給していたこともあったと伝えられている。

2021年9月29日の英国夏時間午後1時、ロールス・ロイス・モーター・カーズ社は、トルステン・ミュラー-エトヴェシュCEOが自ら「スペクター」のプレゼンテーションをおこなう動画を公開(C)ROLLS-ROYCE MOTOR CARS
2021年9月29日の英国夏時間午後1時、ロールス・ロイス・モーター・カーズ社は、トルステン・ミュラー-エトヴェシュCEOが自ら「スペクター」のプレゼンテーションをおこなう動画を公開(C)ROLLS-ROYCE MOTOR CARS

 その後ロイスは、病気療養のため一時的に休業した際に、自ら理想の自動車を作ろうと決意。自身の得意分野である電気工学を生かした電気自動車の可能性も模索したといわれているが、当時はバッテリーの性能が現代とは比べようもないほどに低く、また充電体制も整っていなかったことから時期尚早と判断。航続距離などで明らかに優れていたガソリン自動車に焦点を絞り、現在に至るロールス・ロイスの技術的フィロソフィを構築した。

 また、ロールスとロイスの間を結ぶ「ハイフン」と呼ばれたクロード・ジョンソンや、ロイスの片腕としてながらくR-R社の経営実務を担当したアーネスト・クレアモントも、電気自動車の可能性には一定の理解を示すなど、創成期のロールス・ロイスを支えたレジェンドたちは先見の明をもってEVの未来を予期していたことになる。

 トルステン・ミュラー-エトヴェシュCEOは、スペクターのプロトタイプ発表に先立つこと数日前のプレスリリース内で、以下のように語っていた。

「この画期的な試みのなか、わたしたちは業界でも例のないほど優れた遺産を受け継いでいます。ロールス・ロイスの創業者や創成期にともに働いた人々は、電気の力に関する重要な先駆者であると同時に、その時代の自動車工学における第一人者でもありました。

 ロールス・ロイスの新たな電動化の未来の到来を告げるにあたり、これまで一度も語られることのなかった先駆者たちの感動的な物語を共有し、当社が操業を始めた時代に新鮮かつ魅力的な光を当てることができることを、わたくしは誇りに思い、また謙虚に受け止めたいと思います」

●キーワードは、「浮遊感」

 ロールス・ロイス スペクターの開発はこれまで秘密裏に、そして迅速に進められてきたが、そのプロセスを可能とするテクノロジーはすでに実用化されていた。2017年に登場した現行「ファントム」で初採用され、そののち「カリナン」や2代目「ゴースト」でも採用されたロールス・ロイス独自のアルミニウム・アーキテクチャー「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」である。

 このアーキテクチャーは、もとより拡張性と柔軟性を持たせたスペースフレーム構造で、ファントム以降に発売されるすべてのロールス・ロイスに適用可能とされる。そしてこの独自のテクノロジーは、ロールス・ロイスによってロールス・ロイスのために開発されたもので、ロールス・ロイスだけが使用できるとのこと。

 そして、現在のカリナンやゴーストのような内燃機関搭載モデルだけでなく、まったく異なるパワートレインを搭載したモデルのベースとしても使えるように開発されていたのである。

 一方、今回のリリースでは、バッテリーやモーターなどの電動システムの内容、あるいはスペックについての解説はなされてはいなかったのだが、その代わりに以下のような一説があった。

「ロールス・ロイス・モーター・カーズにとって電気駆動は、唯一かつ完璧な手段となります。それはほかのどの自動車ブランドよりも明らかです。静かで、洗練されており、ほとんど瞬時に最大トルクを発生させ、その後も途方もないパワーを生み続けます。これをロールス・ロイスでは『ワフタビリティ(浮遊感)』と呼んでいます」

 それは、かつてのロールス・ロイスの出力表示にまつわる伝統「必要にして充分」の現代版とも受けとれるだろう。

 そして、2023年第4四半期という正式発売を目指した走行テストについて、トルステン・ミュラー-エトヴェシュCEOは、以下のようなコメントを発している。

「当社のパワートレイン・テクノロジーを根本的に変えるためには、世界でもっとも厳しい目を持つお客さま、すなわちロールス・ロイスのお客さまに提供するに先立って、製品のあらゆる側面の能力を試す必要があります。

 そのために、わたしたちはロールス・ロイスの歴史上でもっとも厳しいテスト・プログラムを用意しました。わたしたちは250万kmもの距離を走行する予定です。この距離は、ロールス・ロイスを400年以上使用することを想定した数値であり、世界のあらゆる場所におもむき、この新しいクルマを極限まで追い込みます。

 世界中の道路で、試験に臨むこれらの車両が、まさに丸裸にされているところを目にすることになるでしょう。数百万kmにもおよぶ旅のあいだ、あらゆる状況、あらゆる地形でテストがおこなわれ、文字どおりロールス・ロイスを未来へと加速させていくのです」

* * *

「The Best Car in the World」の称号を自他ともに認めてきたロールス・ロイスは、来るべき電動化時代を見据えて、2030年までにすべての製品を完全に電動化するという目標を、今回初めて表明したことになる。

 そして、その第一弾となるスペクターがこれからどんな仕上がりをみせるかは、世界最高級車ブランドの行く末をも占うのは間違いのないところであろう。

 VAGUEでは今後のロールス・ロイスとスペクターの動静に、注視してゆきたい。

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