ブガッティ「ヴェイロン」の2倍の価値! 「EB110」はどうして急騰したのか
「ヴェイロン」の2倍の価格になった「EB110」
今回の「Monteley」オークションに出品されたEB110SSは、正規のSSとして製作されたうちの1台。「グリジオ・キアーロ(ライトグレー)」のボディに、EB110SSでは珍しい「ネロ・インキオス(ブラック)」のインテリアの組み合わせで、1994年4月29日に工場試験を完了したのち、フランスのコレクターに納車されたという。
その後スイスの愛好家の所有を経て、現在のオーナーによって米国に空輸されるのだが、その時点での走行距離はわずか9500kmだったという記録が残っている。
●1994 ブガッティ「EB110 SS」
アメリカ輸出に先立ち、このEB110SSは伊カンポ・ガリアーノの「Bエンジニアリング」社にてテクニカルチェックを受けている。この会社は、ニコラ・マテラッツィ氏などアルティオーリ時代のブガッティ・アウトモービリ社スタッフによって設立されたもので、EB110をベースとするスーパーカー「エドニス」を自社開発するかたわら、EB110のメンテナンスサービスやパーツ供給をおこなっている。
スイスにあった時代にも、ジュネーヴのブガッティ正規ディーラーによって3万5000スイスフラン(約3万8000ドル)以上の費用を投下したサービス作業を受けていたのに加えて、アメリカでもコネチカット州グリニッジの「ミラー・モーターカー」社にて、ブレーキの消耗品を交換したほか、ピレリP-ZEROロッソタイヤへの換装にデファレンシャルの調整など約2万7000ドルをかけて、さらなるサービス作業を実施。この時にも、Bエンジニアリングから供給されるパーツと専門知識が使用されたとのことである。
アメリカで走行した分を合わせてもマイレージは1万km未満。また、いわゆる「25年ルール」が適用される車齢を迎えたことから、使用状況や走行距離の制限なしにアメリカの公道で楽しむ手続きもおこなわれており、合衆国各地で開催されるクラシックカー/スーパーカーイベントにも参加してきた。
とくに2019年の「ザ・クエイル・モータスポーツギャザリング」および「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」にて、EB110SSを意識してデザインされた最新の限定車「チェントディエチ」が初お披露目された際に、かたわらに展示されていた個体そのものである。
この魅力的なEB110SSに、RMサザビーズ北米本社は275万−300万ドルのエスティメートを設定。8月14日、もう1台のヴェイロンの33ロットあとにおこなわれた競売では275万5000ドルで落札された。これは日本円換算で約3億600万円、つまり同じオークションにおけるヴェイロンの2倍近い価格で落札されたことになる。
異次元のブガッティ、ヴェイロンがデビューした今世紀初頭から2010年代中盤まで、EB110は一時的ながら忘れられた存在となっていた。国際マーケットでの相場価格も新車のヴェイロンや、同時代のライバルであったマクラーレンF1が億単位で流通しているのを横目に見ながら、せいぜい6000万−7000万円くらいの正札がつけられていたのだ。
しかし、EB110へのオマージュを体現した限定車「チェントディエチ」が発表されたあたりから、そのオリジンたるEB110の評価も急上昇したようだ。
EB110が現役だった時代、極東の小さな支社の末端社員とはいえ、ブガッティ・グループの一員として「世界最高のスーパーカーを創造する」という壮大な夢に加わるべく全精力を傾けた経歴を持つ筆者としては、ようやく正当な評価を受けられたような気がして、非常にうれしく思えてしまったのである。
コメント
本コメント欄は、記事に対して個々人の意見や考えを述べたり、ユーザー同士での健全な意見交換を目的としております。マナーや法令・プライバシーに配慮をしコメントするようにお願いいたします。 なお、不適切な内容や表現であると判断した投稿は削除する場合がございます。