「わずか3秒」でもEVを訴求? ホンダが新型SUV「プロローグ」を発売3年前に告知した訳

ESG投資の拡大が与えた影響とは

 北米でのEVの歴史を振り返りますと、大きな転換期となったのはカリフォルニア州大気保全委員会が立案したZEV法(ゼロエミッションヴィークル規制法)が施行された1990年です。

 ZEV法はEVのみならず、燃費が良く有害廃棄物量が少ないLEV(ローエミッションヴィークル:低公害車)の対する規制が段階的に強化されてきました。

 LEVの研究開発には若き日の三部社長が関わっていますので、三部社長はZEV法を含めた北米での燃費や電動化に関する規制動向については肌感覚で理解していると思います。

 また燃料電池車についても、トヨタやGMとともに、カリフォルニア州フューエルセルパートナーシップ(CaFCP)に参画しており、筆者(桃田健史)も「FCX」などホンダ初期型燃料電池車をロサンゼルス周辺で何度もテストドライブしています。

ホンダ「プロローグ」のロゴ
ホンダ「プロローグ」のロゴ

 その後、「FCXクラリティ」、「フィットEV」などがリース販売されましたが、当時の福井威夫社長や伊東孝紳社長に直接話を聞くと「FCVもEVも、あくまでも規制ありき。補助金頼みでは普及しない」という姿勢を崩しませんでした。

 その頃、テスラはまだ小さなベンチャー企業でしたが、ホンダは2000年代後半にZEV法をクリアするため、当時はまだ生産量が少なくZEV法への参加義務がなかったテスラからZEVクレジット(CO2排出枠権利)を購入しています。

 当時、テスラ幹部に直接取材したところ「ホンダにはかなり高額でZEVクレジットが売れた。その収益によって我々の財務状況が大きく改善した」と発言しています。

 その後、2010年代にテスラが「モデルS」以降の事業拡大路線に乗ってきても、ホンダとしては電動化はハイブリッド車を基盤としてグローバルで国や地域の社会情勢や規制を加味して段階的におこなう、という戦略を維持してきました。

 とくに、プレミアムEVという電池容量が100kWh近いモデルについては、「FCVがカバーする領域」という解釈で、これはトヨタも同じでした。

 ところが、2010年代後半になり、環境対応策を主体とする企業への投資動向が大きく変化します。

 従来の財務諸表だけではなく、環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資がグローバルで急拡大し、その大波に乗ったテスラは時価総額で日系メーカー全社を足した分よりさらに大きくなるという、ホンダにとってまったく予期せぬ出来事が起こりました。

 規制ではなく、投資によってEV市場は劇的に変化したのです。

 まさに、ESG投資はEV/FCVにとってのゲームチェンジャーでした。

 こうした状況で、日米欧韓、そして中国の自動車メーカーは、国や地域でのEV/FCVに対する規制への対応をベースとしながら、ESG投資を強く意識した商品戦略が必須となっています。

 そのため、テスラが今後もプレミアムEV市場で独り勝ちすることは極めて難しくなる一方で、ホンダとしては他社協業も重視しながらスピード感を持ったEV/FCV量産戦略を進めなければなりません。

 ホンダは「プロローグ」の2024年発売の前に、さまざまな電動化戦略を次々と打ち出すことになりそうです。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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