【深読み】ワンオフ「アバルト1000SP」のベースはアルファ ロメオ「4C」なのか!?
実はアルファ ロメオ「4C」のプロトタイプ? アバルトが作ったスタディとは?
今回ようやく発表となったワンオフモデル、アバルト1000SPについて発信された英語版プレスリリースから一部を直訳してみると「歴史的なスポーツプロトティーポ(訳注:往年のフィアット・アバルト1000SPのこと)の『皮膚』の下にあるチューブラーフレームは、カーボンファイバーのセンターシェルとアルミニウムのフロントサブフレームを備えた、ハイブリッドフレームに取って代わられます」との由。
また「アバルト1000SPは、強力なターボチャージャー付き4気筒1742ccのエンジンをミドシップに備えており、最大240hpの出力を提供できます。コンセプトの洗練されたメカニズムは、フロントにオーバーラップするトライアングルサスペンションを誇り、リアに高度なマクファーソンストラットを備えています」とも書かれている。
●未完に終わったコンセプト“アバルト・モノミッレ”の完成形?
このプレスリリースではアルファ ロメオ「4C」との相関関係には一切触れられていないものの、イタリア車、あるいは自動車のテクノロジーに造詣の深い人がこれらのスペックを一瞥すれば、すべての技術的特徴が4Cとまったく共通していることに気づかれよう。それゆえ「アバルト1000SPは、アルファ ロメオ4Cをベースとするコンセプトカー?」とも思われがちなのだが、実際のところはそうとも言い切れないようだ。
2011年春のジュネーヴ・ショーにて「アルファ ロメオ4Cコンセプト」としてショーデビューした4Cは、フィアット・グループ各ブランドのクリエイティブ部門が集結した大規模ワークショップ、2007年に復活したアバルトの源流のひとつでもある「Officine 83(オフィチーネ・オッタンタトレ)」および、レーシングカーのコンストラクター「ダラーラ(Dallara)」とのコラボ開発であると伝えられていた。
しかし、以前筆者がトリノで伺った話を信ずれば、もともとこのプロジェクトは「オフィチーネ・オッタンタトレ」内の「オフィチーネ・アバルト」主導で、しかも「アバルト・モノミッレ(Monomille=1000)」の社内コードネームで開発されていたという。
今回の英語版プレスリリースには記されていないが、FCAヘリテージのオフィシャルSNSページでは、かつてフィアット現行「500」の取りまとめをおこなったほか、「500L」や「500X」などのデザインワークも主導したのち、現在ではFCAヘリテージの長であるロベルト・ジョリート氏と彼のチームが、「アバルト1000SP」のボディ開発を手掛けたことを公式に認めている。
そして、彼がフィアット&アバルト「チェントロスティーレ」を率いていた時期を勘案すれば、アバルト・モノミッレの方がアルファ4Cよりも先に作られていたことは明らかである。
ところがなんらかの事情、おそらくは「フィアット/アバルト124」の時とは逆の政治的判断によってか、アバルト・モノミッレはアルファ ロメオ4Cへと切り替えられることになったと推測されるのだ。
それでもアバルトは、アルファ ロメオ4Cプロジェクトが軌道に乗ったのちにも、モノミッレの生産化をあきらめてはいなかったようだ。
当時トリノで漏れ聞いた話によると、モノミッレはアルファ ロメオ4Cの1.75リッター直噴ターボではなく、アバルト・プント用1.4リッター「マルチエア」ターボを搭載。4Cの妹分にあたる姉妹車として開発が進められていたという。
また「4Cコンセプト」ショーデビューと同じ2011年のジュネーヴ・ショーでは、欧州最大級のデザインスクール「IED」とのコラボレーションで、「IEDアバルト・スコーピオン」と名づけられた、ミドシップ・スポーツのコンセプトカーも出品している。
このスコーピオンは4輪を電動モーターで駆動するバッテリーEVであると謳われていたものの、当時のメディアではアバルトのミドシップスポーツカー開発は「公然の秘密」と目されていたのだ。
筆者が「オフィッチーネ・アバルト」を訪ねた際、当時アバルトで重責に就いていたさる人物に「フィアット既成車種のチューニング版ではなく、専用ボディを持つ『ピュア・アバルト』を創る予定はありますか?」と質問したところ、満面の笑みとともに「よく聞いてくれました。近い将来、きっとお見せできると思いますよ」という返答があった。
しかし、アバルト版4Cであるモノミッレが日の目を見ることはなく、生産に移されたアルファ4Cも2020年をもって歴史の幕を閉じてしまった。
そして今年、旧「アバルト・クラシケ」から発展したFCAヘリテージから、未完のまま終わったモノミッレの完成形ともいうべきアバルト1000SPが初公開されたことには、このワンオフ・コンセプトを開発した張本人であるFCAヘリテージの責任者、ロベルト・ジョリート氏の意地のような想いが込められている……?
筆者の脳裏には、そんな邪推が浮かんでしまうのである。
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