ベースはなに? トゥーリングが手がけたマセラティのカルトカーとは

かつて、フェラーリやアストンマーティン、ランボルギーニといったブランドのボディ架装を手がけていた「トゥーリング・スーペルレッジェーラ」が、マセラティ「グラントゥーリズモS」をベースにして、現代の「シャーディペルシャ」を製作していた。

パフラヴィ国王がオーダーした特別なマセラティ

 2021年3月10日に競売締め切りとなったボナムズ社のオンライン限定オークション「Les Grandes Marques du Monde a Paris」に、1台の特別なマセラティが出品された。

 それは、2018年のジュネーヴ・ショーにおいてワールドプレミアに供されたマセラティ「シャーディペルシャ(SCIADIPERSIA)」であった。ミラノ近郊ロー(Rho)に──実はあのザガートと同じ敷地内に──本拠を置くカロッツェリア&デザインスタジオ「トゥーリング・スーペルレッジェーラ(スーパーレッジェーラ)」が、マセラティ「グラントゥーリズモ」をベースとしてワンオフ製作したスペチアーレである。

●名門が国王のリクエストに応じて創った、歴史的名作がモチーフ

2006年に復活した新生トゥーリングが手がけた「シャーディペルシャ」(C)Bonhams 2001-2021
2006年に復活した新生トゥーリングが手がけた「シャーディペルシャ」(C)Bonhams 2001-2021

 イタリア・ミラノの「トゥーリング・スーペルレッジェーラ」は、1930-1950年代後半にかけて隆盛を極め、ピニンファリーナがその地位を得る以前には、イタリア・カロッツェリア業界の実質的盟主としても知られた名門である。

 1934年に国際特許を獲得した軽量ボディ構築法「スーペルレッジェーラ(スーパーレッジェーラ)」工法を用いた軽量かつ豪奢なボディで、第二次大戦前のアルファ ロメオを皮切りに、戦後はフェラーリやアストンマーティン、ランボルギーニなど名だたるスーパースポーツのボディ架装を担当した。

 とくにマセラティとのコラボレーション事業は成功をおさめ、初の量産モデル「3500GT」クーペモデルのボディ架装を一手に引き受けたほか、1959年から34台のみが製作された超弩級スーパースポーツ「5000GT」でも、3台の架装を担当することになった。

 マセラティのなかでもハイエンドのスペチアーレ的モデルとして企画された5000GTは、同社のレーシングスポーツカー「450S」直系となる、5リッターV型8気筒4カムシャフト+機械式インジェクションの驚異的なエンジンを搭載。フェラーリ「410/400スーパーアメリカ」の唯一のライバルに位置づけられ、この時代における世界でもっともゴージャスかつ高価なスーパースポーツ二大巨頭として君臨した。

 トゥーリング・スーペルレッジェーラは3台のマセラティ5000GTを手掛けたが、オリジナルとなった最初の1台はペルシャ、つまりイランのシャー(王)によって注文されたものであった。

 その輝かしい歴史とモチーフを21世紀のマセラティに投影したのが、新生トゥーリング・スーペルレッジェーラ謹製のマセラティ「シャーディペルシャ」なのだ。

 マセラティ「シャーディペルシャ」の車名に掲げられた「シャー(Scia)」とは、古代イランのササン朝で使われた王の称号。16−17世紀のサファヴィ朝で復活させ、その後のカージャール朝やパフラヴィ朝でも使用されたとのことである。

 そして、このクルマのモチーフとなったマセラティ5000GTを往年のトゥーリング・スーペルレッジェーラにオーダーしたのは、現時点におけるイラン最後の国王であるモハンマド・レザー・シャー・パフラヴィである。

「パフラヴィ2世」とも呼ばれるが、とくに1979年のイラン革命によって亡命を余儀なくされた時期の日本国内報道では「パーレビ国王」と呼ばれていたことを記憶している人も多いことだろう。

 彼は自動車愛好家としても知られ、1960−1970年代を通じてフェラーリの各モデルや「934ターボ」を含むポルシェ、そして、メーカー社内改装の「イオタ仕様ミウラ」(のちに俳優ニコラス・ケイジが所有した個体)などを特注でオーダーするほどの熱心さを見せた超級エンスージアストだった。

 このパフラヴィ2世が、エンスーの萌芽を示した1台こそがマセラティ5000GTトゥーリング・スーペルレッジェーラ製クーペだったともいえるようなのだ。

【画像】カルトカー決定! トゥーリングが手がけたマセラティ(29枚)

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