「C」だけど「Sクラス」以上! 6ドアの「プルマン」とはどんなメルセデス?
メルセデス・ベンツから新型「Sクラス」がリリースされ、その最新技術に注目が集まっているが、メルセデス・ベンツのフラッグシップは、いつの時代も最先端技術が詰まっていた。そこで1960年代の超ド級高級リムジンの驚きの技術を紹介しよう。
「Sクラス」以前のラグジュアリーリムジン
2021年1月22日にRMサザビーズ北米本社が、アリゾナ州スコッツデールで開催した「ARIZONA」オークションにて、1台のクラシック・メルセデスが出品・落札され、世界中のファンの間で話題を呼んだ。
メルセデス・ベンツ130余年の歴史のなかでも特に伝説的な存在として名高い、第二次大戦後の「グロッサー」であるメルセデス・ベンツ「600」のなかでも、とくにレアな個体である。
●1966 メルセデス・ベンツ「600 6ドア プルマン」
1963年のフランクフルト・ショーにてワールドプレミアされたメルセデス・ベンツ600は、ダイムラー・ベンツ社、さらには第二次大戦で喫した壊滅的敗戦から、復興を図ろうとしていた西ドイツの威信を取り戻すべく開発された、超高級プレステージセダンである。そしてまた、1960年代初頭の自動車界における先端テクノロジーの結晶体でもあった。
ボディは、フレーム別体式が当たり前だったこの時代のプレステージカーとしては画期的なフルモノコック構造。サスペンションは前:ダブルウイッシュボーン/後:シングルジョイント&ローピボット式スウィングアクスルの全輪独立と、第二次大戦直前以来のメルセデス・ベンツの技術的セオリーに従ったもの。
しかし、自動車高調整装置付きのエアスプリングを採用していたのが、600のサスペンションにおける新機軸だった。
また4輪ディスクブレーキに備えられたサーボアシストも、エアサスペンションのためにエンジンが駆動するエアポンプで発生する圧縮空気を原動力としていた。
加えて、メルセデス・ベンツ600シリーズにおける技術的トピックとして語り草となっているのは、高度な油圧テクノロジーの集合体であったことだ。
現代車のセオリーでは電磁式とされるトランクフードやドアの集中ロックのほか、通常は電動モーターが用いられるパワーウインドウやシートの前後/上下/後席リクラインの調節も、すべて油圧制御とされていたのだ。
パワーユニットは、メルセデス・ベンツの市販乗用車としては初となったV型8気筒で、軽合金製のヘッドはSOHCレイアウトを採る。総排気量は6332ccで、ボッシュ社製インジェクションを組み合わせて250psの最高出力と51.0kgmの最大トルクを発生。この時代のメルセデスでは常道であった、フルイドカップリング+遊星歯車による4速ATが組み合わせられる。
その結果として得られたパフォーマンスは、当時の常識を覆すものであった。ホイールベース3200mm、全長5540mmという巨体と豪華な装備ゆえ、車両重量は2470kgにも達したものの、0−100km/h加速9.7秒、最高速205km/hという、ほぼ時を同じくして誕生したポルシェ911(901型)に匹敵する動力性能の持ち主となったのだ。
そして、メルセデス・ベンツ600の登場から2年後となる1965年、満を持して追加発表されたのが、ホイールベースを3900mm、全長は実に6240mmまで延長し、7/8シーターとした本格的リムジンの「600プルマン」だった。
ところで、とくにわが国においてはメルセデス・ベンツ600シリーズすべてが「プルマン」と誤表記されてしまう事例もしばしば見られるが、本来プルマンと呼ばれるべきはロング版のみ。
さらに話を複雑にしているのは、プルマンが追加設定されたのち、スタンダード版の600が「バージョンA」という公式のカタログ表記のほかに、ドイツ語でセダンを意味する「リムジーネ」という通称で呼ばれるようになったことであろう。
ともあれ、企業トップに加えて国家元首級のVIPたちにも愛用されることになった「バージョンB」こと600プルマンに加えて、高級ホテルなどの送迎用としてドアを片側3枚の6ドアとした(注文によっては5ドアも存在する)「バージョンC」も設定。
さらには、国家的なパレードなどを目的とし、ルーフ後半が開閉可能なソフトトップとされたランドレー・リムジンの「スペシャルバージョンD」なども、ごく少数のみが製作されることになった。
そして1981年6月に生産を終了するまでの17年間に、600バージョンAが2189台。600プルマンが428台。ランドレーも59台で、合わせて2676台が生産されたとの記録が残されている。
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