超絶希少!! アルファ ロメオ「TZ3」に試乗して分かったダッジ「バイパー」との違い
一流のカロッツェリアが成せる技とは
「エアバッグを含め、ベース車両が本来持っている安全性の確保や視認性などの重要なエルゴノミクスの観点から、オリジナルの状態からの形状の大幅な変更はもとより、機能やレイアウトの変更をすることが極めて困難という動かし難い理由が大前提にあるため、あくまでも許される範囲内で手を加えただけ」と説明を受けたのだが、もちろんTZ3ストラダーレは「だけ」じゃなかった。
●エモーショナルなインテリア
コンソールからセンターパネルにかけて、さらにドアパネルなどは、ザガートのCAD技術によって新たに設計の段階からワンオフで作られているし、細かなパートまで含めた各部の素材や色味なども、吟味されたうえで大幅に変更されている。
手間もコストも並ではないだろう。何しろバイパーのそれと同軸にあるとはとても思えない仕上がりを見せているのだ。質感も雰囲気も、まったく別次元。余分な装飾を徹底的に排除しながら機能を追求し、上質であることも譲らない、絶対に誤魔化しの効かないシンプルな美しさである。ミニマリズム、という言葉で表現するのがもっとも解りやすいだろうか。
それもそのはず。このインテリアは、世界的に知られるミラノのラグジュアリーファッションブランド、「コスチューム・ナショナル」社とのコラボレートによって完成したもので、同社のデザイナーであり代表でもあるエンニョ・カパサ氏が直々に関与している。
後にカパサ氏と話をする機会を得たのだが、彼は「僕にとってはファッションもクルマも同じ、エモーショナルなもの。またそうでなくてはならないもの」といっていた。
コスチューム・ナショナルのアイテムはシャープでエッジィと評されているが、その根幹にあるのはやはりミニマリズム。シンプルなのに目が離せない美しさを創造しているところなど、まったく同一線上にある。制約の多いなかでその世界観を表現するのは困難だったのではないかと思うが、アーティストとしての感性を綺麗に当て嵌めているあたり、見事である。
●「バイパー」とはまったくの別モノだった
眼に入るものからベース車の存在があまり感じられないのに、サウンドだけはベース車のそれ。不思議な気分で重めのクラッチをアイドリングのままつないでみると、TZ3ストラダーレは何の苦もなくスルスルと滑りだした。スロットルをジワッと踏み込むと、強烈なトルクの塊が車体を力強く前進させようとする。
あれ? と思った。
そのまま深く踏み込むと、608ps/77.5kgmのV10ユニットのサウンドが揃いはじめて純度を高め、並み居るスーパーカー達を蹴散らすような勢いの凄まじい加速力を発揮してくれることも、過去の経験から判ってる。
だが、何から何までバイパーと同じ──ではなかった。似ているけれど少し違う。TZ3ストラダーレは、動きがちょっとばかり軽いのだ。ステアリングを切って長いノーズが反応するその動きすら、軽快さを増しているように感じられる。ザガートは数字を示してくれなかったが、ベース車の1560kgより100kgくらいは軽くなってるんじゃないか? とすら思えたほど。
試乗時にはまだクルマが組み上がったばかりで、走行距離はたった30kmの状態。思い切り鞭をくれるような走らせ方はできないし、ひとりのクルマ好きとして、そんなことはしたくない。
だが、そうせずともTZ3ストラダーレの美点を垣間見られたことは、大きな収穫だった。自動車の性能を車体でチューンナップするというのはどういうことなのか、軽い驚きをもってあらためて知ることができたからだ。
短い試乗を終えて、あらためてTZ3ストラダーレのフォルムを眺めてみる。
力強く、優美で、艶めかしくて、強烈な存在感を放ってる。そのなかにはスレンダーだけどグラマラス、雄々しいけれど女性的、鋭いけれどまろやか、トラディショナルだけど新しい、凄味はあるけどエレガント、という相反する要素が矛盾もなしに綺麗に混在している。
その見事なまでのバランスには、ただただ溜息をつくしかない。過去の名車の名を背負っていながら、模倣もなければコンプレックスもない。ルーツはルーツとしてリスペクトしながら、完全に新しいTZ像を創造しているのだ。
カロッツェリアの「仕事」の真髄が、ベースのクルマ以上に車体で「魅せる」ことや「速くする」ことにあるのなら、まさしくザガートの実力は極めて高いところにある。一流のカロッツェリアというのは、本当に凄いものである。
コメント
本コメント欄は、記事に対して個々人の意見や考えを述べたり、ユーザー同士での健全な意見交換を目的としております。マナーや法令・プライバシーに配慮をしコメントするようにお願いいたします。 なお、不適切な内容や表現であると判断した投稿は削除する場合がございます。