バブル期5000万円もザラだった!! 「テスタロッサ」のバリものが1800万円で落札!

打倒「ディアブロ」だった「512TR」とは?

 1992年1月。日本を含む主要マーケット各国で同時リリースとなったフェラーリ512TRは、1980年代の傑作スーパースポーツ「テスタロッサ」を1990年代の最新テクノロジーでリファインし、ランボルギーニ「ディアブロ」など後発のライバルに負けないスーパースポーツの雄へと、再び押し上げるために用意されたモデルである。

●1992 フェラーリ「512TR」

1990年代のテクノロジーで「テスタロッサ」をリファインした「512TR」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
1990年代のテクノロジーで「テスタロッサ」をリファインした「512TR」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 一見したところ、テスタロッサのボディ内外装にフェイスリフトを加え、パワーを上乗せしただけのマイナーチェンジ版にも映るが、その実はシャシから大規模な変更を受けていた。

 それまでエンジンを支えていたサブフレームは、剛性アップと軽量化のためにメインのチューブラーフレームと一体化。エンジンの搭載位置も、わずか数cmながら低められた。

 また、前後ホイールは18インチに拡大されると同時に、テスタロッサではやや不安のあったストッピングパワーについても、大径化されたベンチレーテッド・ディスクブレーキによって概ね満足すべきものとなったのだ。

 加えて、カロッツェリア・ピニンファリーナが手掛けたボディのスキンチェンジもかなり大規模なもので、前後のバンパーはより丸みを帯びた形状へとブラッシュアップ。テスタロッサ時代には複数のパーツで組み立てられていたリアのエンジンフードも一体プレスとされた上に、左右フィンがテールエンドまで伸びるスタイルとなった。

 またインテリアも大幅にモダナイズされる傍らで、ダッシュパネルとセンターコンソールは、1970年代のフェラーリのようにセパレート化が図られた。

 一方、テスタロッサで初めて気筒当たり4バルブとされた4943cc180度V型12気筒4カムシャフトエンジンは、ムービングパーツの軽量化とともに、シリンダーとライナーもニカシルコーティングも最新化された。

 燃料供給もテスタロッサ時代のボッシュKEジェトロニックからモトロニックML2.7に変更。さらに吸/排気系に大規模なモディファイを受けることになった結果、パワーは400psの大台を遥かに越えた428ps。当時5ps刻みでのパワー表示が慣例とされていた日本仕様では、中身は同じながら「425ps」へとアップを果たした。

 そしてかつての365/512BB以来、久しぶりに300km/hの大台に達する最高速を公表することになったのである。

 さて、このほどRMサザビーズ「LONDON」オークションに出品されたのは、1992年から1994年の間に2280台が生産されたうちの1台。ボディはおなじみのロッソ・コルサで、タン(当時のフェラーリではBeige)のインテリアを組み合わせている。

 1992年10月にマラネッロ工場からライン・オフし、1993年1月18日にスイスにデリバリーされ、その後まもなくスイス国内登録がおこなわれたという記録が残されている。

 2015年にスイス国内で現在のオーナーに譲られたのち、スイスおよびモナコのフェラーリ・スペシャリストによって、定期的に必要なメンテナンスサービスを受けているとのことで、オドメーターに約4万1500kmを示す現在となってもコンディションは極上。もちろん、パワートレインは本来のマッチングナンバーを維持している。

 今回のオークション出品にあたっては、オリジナルのマニュアルや資料、ツールキット、サービスドキュメントなども添付されており、美しいコンディションも相まって、現状のマーケットにおけるハイエンドに近い512TRといえるだろう。

 オンライン限定でおこなわれた競売では9万3500ポンド、日本円に換算すれば約1300万円で落札されることになった。つまり今回紹介するテスタロッサとの間には約460万円の価格差が生じたのだが、この評価には走行距離やコンディション以上の要素が作用しているかに感じられる。

 テスタロッサと見比べると、512TRはパフォーマンスやクオリティについて大幅なブラッシュアップが図られている一方で、例えばエンジンフードの造形やインテリアなどには、明らかなコストダウンの痕跡が見受けられるのは否めない。

 なにより「かつて憧れていた」というノスタルジーを含む、コレクターズアイテムとしての資質。そして「時代のアイコン」感という点において、テスタロッサには及ばないことも、512TRとの価格差に反映しているかに感じられるのだ。

 とはいえ、これくらいのグッドコンディションの512TRが「1300万円コース」に戻ってくるという相場感が、全世界のスタンダードとなることを歓迎するファンは決して少なくないというのも、間違いのない事実であろう。

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