ダブルバブルな「ザガート」にバブル再来! 「TZ3」は意外と苦戦の5100万円で落札
中身がアメリカンなザガートの人気は?
RMサザビーズ社主催の「THE ELKHART COLLECTION」オークションに出品された、もう1台のザガート車は、2012年デビューの「アルファ ロメオTZ3ストラダーレ」である。
フィアット・アバルト750GTと同じく、ルーフには「ダブルバブル」が設けられるなど、ザガートのエッセンスが巧みに織り込まれた1台である。
●2010 アルファ ロメオ「TZ3 ストラダーレ」
このモデルは、もともとアルファ ロメオ100周年をザガートが祝うかたちでワンオフ製作し、2010年に発表された「アルファ ロメオTZ3コルサ」がオリジンである。
伝統の「TZ(Tubolare Zagato)」の名を正当なものとするために、一部をチューブラーフレーム化したシャシに、アルファ ロメオ「8Cコンペティツィオーネ」の試作車と同じ、マセラティ起源のV8エンジンを搭載したレーシングカー仕立てのプロトタイプだった。
一方、その2年後に発表された「TZ3ストラダーレ(ロードバージョン)」は、スタイリングこそTZ3コルサを豪奢に仕立てたかに見えながらも、その実はまったくの新設計である。
「TZの伝統にインスパイアされた」という鋼管フレームを持つが、その中身は「ダッジ・バイパーACR-X」のシャシと、600psをマークする同じくバイパーACR-X用8.4リッターV10エンジンを流用したモデルである。
ボディデザインはカロッツェリア・ザガートで長らくチーフスタイリストを務め、TZ3コルサも手掛けた原田則彦氏。一方インテリアのデザインは、イタリア発のアパレルブランド「CoSTUME NATIONAL」の創始者にしてデザイナーでもあるエンニョ・カバサ氏が担当するという、近年のザガートでは定石のコラボレーションといえよう。
さて、今回出品されたTZ3ストラダーレは、総計9台が生産されたうちの6台目とされる。負債回収を目的とするオークションであるがゆえに、RMサザビーズ社は確実な落札を目指して、40万ドルから60万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
そして実際の競売では48万9000ドル、日本円に換算すれば約5120万円という、近年のザガート製リミテッドエディションとしては異例ともいうべき、リーズナブルな価格での落札となった。
TZ3ストラダーレは生産台数9台のみという希少性についても申し分なく、「アルファ ロメオ×ザガート」というコレクターズカーの世界では鉄板のWネーム。にもかかわらず、かくも厳しい評価に終わったのは、あくまで筆者の私見ながらこのモデルが「純然たるザガート」であっても、「純然たるアルファ ロメオ」とはいいづらいことが大きく影響しているかに映った。
既にクライスラー・グループとアライアンスを組んでいたフィアット・グループに属するアルファ ロメオゆえに、ダッジ・バイパーともまったく縁が無いわけでもないのだろうが、TZ3コルサが8Cコンペティツィオーネ試作車などにも搭載された、マセラティ由来のV型8気筒4カムシャフトを搭載していたのに対して、TZ3ストラダーレ用エンジンはダッジ・バイパー由来、ひいてはピックアップトラック「ダッジ・ラム」用を起源とするV型10気筒OHVエンジンを搭載していたことも原因かもしれない。
デビュー当時のアルファ ロメオでは「初めてアメリカンエンジンを搭載したアルファ ロメオ」などという、いささか苦し気なアピールをおこなっていたことも記憶に新しい。
しかし、かつては世界屈指のエンジンを生産するメーカーのひとつとして君臨し、フィアット・グループ傘下に収まったのちも、エンジンのみは自社で大幅なモディファイを施すことによって「アルファ化」に勤しんできた伝統を愛するアルフィスタ(アルファ ロメオ愛好家)たちに、アメリカ製の心臓が受け容れられることは難しかった……、と見るのが自然であろう。
かくのごとく、「情緒的」ともいわれそうな理由で高価落札には至らなかったTZ3ストラダーレ。しかし、オークションとは得てして情緒で決することがあるのを、今いちど思い知らせてくれた気がするのである。
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