日産は即否定!「三菱自動車の保有株売却検討」報道なぜ出たのか?

アライアンスの必要がなくなった?

 今回、ブルームバーグが報道した内容では、新型コロナウィルスなどの影響もあり、三菱自動車の業績回復が想定よりも遅れていることと、ルノーと日産から見て三菱自動車とアライアンスを継続していく、つまり資本関係を維持していく必要性が薄れつつあることから、日産自動車が三菱自動車株の売却を計画していると伝えています。

 しかし、ブルームバーグが報道した直後に、ロイター通信は「日産広報部による否定のコメント」を報じています。ただ、株式市場や社会的な影響を考えると、このタイミングで日産自動車が否定のコメントを出すことはありえないため、真偽のほどは定かではありません。

 仮に、報道が事実だとすると、三菱自動車の売却の理由は日産による資金の確保にほかなりません。11月12日に発表された日産自動車の2020年度上期決算では、前回見通しよりも上向きだったとはいえ、依然として6000億円以上の赤字を見込んでいます。

 自動車メーカーのように多くの社員を抱え、工場や開発施設などを持つ大企業では、数千億円単位の現金が毎月必要になるといわれています。日産自動車がとにかく現金の確保を最優先しているならば、三菱自動車の株式を売却するという選択肢もあり得ます。

 一方で、日産自動車は社債の発行などの現金確保施策を進めているほか、およそ2兆円の融資枠を持っていることが明らかにされています。つまり、三菱自動車株売却による1000億円から2000億円程度の現金を確保することは急務ではないと見る向きもあります。

 しかし、もっとも説得力のあるのは、日産自動車内にある「ゴーン離れ」の思惑かもしれません。前述のとおり、カルロス・ゴーン氏はそのらつ腕を奮ってきましたが、結果として日産自動車を追われることとなり、現在では日産から100億円規模の損害賠償請求をされています。

 カルロス・ゴーン氏が去った後の日産自動車は、株価も大きく落ち込み赤字企業へと転落。現在は内田誠社長兼CEOのもと再建を図っていますが、道半ばであることは否めません。

三菱は、日産と共同開発する新型軽EVの製造工場となる水島製作所において、約80億円の設備投資をおこなうと2020年7月に発表している。
三菱は、日産と共同開発する新型軽EVの製造工場となる水島製作所において、約80億円の設備投資をおこなうと2020年7月に発表している。

 カルロス・ゴーン氏の経営者としての手腕を評価する人も少なくない一方で、現在の日産自動車の経営層からすると、一刻も早くカルロス・ゴーン氏の亡霊を消し去り、新生日産自動車として前に進みたいと思うことでしょう。

 このように考えると、三菱自動車の売却という噂は、日産自動車内にある「ゴーン離れ」が具現化したものといえるかもしれません。

※ ※ ※

 もし仮に、日産自動車が三菱自動車を手放したとき、三菱自動車はどのようになってしまうのでしょうか。報道では三菱商事などのグループ企業が引受先になるといわれていますが、場合によっては外資系ファンドだったりする可能性もあるかもしれません。

 株主が変わることが必ずしも不幸な結果になるというわけではありませんが、少なくとも自動車業界再編のターニングポイントになることは間違いありません。まずは各社の公式発表を待ちたいところです。

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Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明

自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。

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