マセラティの救世主になるはずだった「ボーラ」とは?【THE CAR】
クラシックでモダン、いまならウケたかもしれない「ボーラ」とは?
スタイリングはよく知られているように、イタル・デザインのジョルジェット・ジウジアーロ(GG)によるものである。
深い弧を描いたサイドウインドウの造形にGGの明確なシグナルがみえる。
1970年代を迎えて、世の高級スポーツカーがおしなべて未来的なウェッジシェイプを志向するなか、ボーラはイタリアンベルリネッタの美しさや柔らかさ、優しさを適切に守りつつ、適度に思い切った直線を組み合わせることで、クラシック&モダンなスーパーカースタイルを実現しようとした。
ガラスに囲まれたリアカウルや、ステンレス製ルーフなど、抑制の利いた、けれども見る者を引きつけてやまない数々の演出は、さすがにマエストロGGの本領発揮というべきだろう。
インテリアには、スパルタンさは皆無といっていい。ユニークでかつ洗練されたデザインであり、同じ故郷のライバルたちとは一線を画す。ランボルギーニほどはクラシカルでなく、フェラーリほど汗くさくない。
ドライバーの背後に積まれたのは、ギブリと同じマセラティ製4.7リッター(後に4.9リッター)V型8気筒DOHCエンジンだ。気筒数を競うのではなく、前モデルからの流用とはいえ、ミドシップスポーツカーに適切なサイズのV8エンジンを積んだという点は、老舗スポーツカーブランドゆえのスマートさというべきか。
事実、その「現実」のGT性能は、最高速度を含めて、フェラーリやランボルギーニといった12気筒モデルたちに、全くひけをとるものではなかった。
このボーラで、マセラティは、時流をリードする決意をしたのだった。
実際に走らせてみると、ボーラというクルマには、その見かけとは裏腹に、たとえばステアリングフィールを云々と語ってみたくなるようなスポーツ性など、皆無に等しい。
金持ち喧嘩せずというが、シトロエン由来のハイドロLHMに支配されたボーラの走りは、鼻先を競い合うような世界から、もっとも無縁な位置にある。どちらかというと、1990年代のロールス・ロイスやベントレーに近い。なるほど、いずれもLHMユーザーである。
けれども、ストレートでの速さだけは一級品である。思い出して欲しい。1970年代当時、ハイスペックスポーツカーのランクを決定づける要素といえば、0−100km/h加速タイムでもなく、ましてやニュルブルクリンク・ノルドシュライフのラップタイムでもなかった。
それは、単純に最高速度であったのだ。子供時代の我々は、漫画サーキットの狼に登場する「切替さんのボーラ」から、ストレートでは群を抜いて速いという事実を知っていた。
ボーラの少なくともパフォーマンスにおける「よりどころ」といえば、わずかに最高速のみ。例えば同じ時代のデ・トマソ「パンテーラ」やフェラーリ「308GTB」といったV8ミドシップスーパーカーのなかでは、もっとも「ドライビングファン」、「ハンドリングファン」に欠ける、道が曲がったとたんにツマラナイクルマ、なのだった。
しかし。そんなマイナス評価をものともしない凛とした佇まいこそが、ボーラの魅力だ。デ・トマソ「マングスタ」と並んで、それは巨匠GGの最高傑作のひとつといっても、過言ではない。史上最高の観賞用スーパーカーなのだ。
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●MASERATI BORA
マセラティ・ボーラ
・全長×全幅×全高:4335×1768×1134mm
・エンジン:V型8気筒
・総排気量:4700cc
・最高出力:310ps/6000rpm
・最大トルク:49.9kgm/4000rpm
・トランスミッション:5速MT
●取材協力
DREAM AUTO
ドリームオート/インター店
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・所在地:栃木県栃木市野中町1135-1
・営業日:年中無休
・営業時間:10:00~18:30
・TEL:0282-24-8620
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