メルセデスにロータリーEgがあった! ガルウイングのコンセプトカーとは?【THE CONCEPT】

メルセデス・ベンツのスポーツカーといえば、映画「死刑台のエレベーター』にも登場した「300SL」が有名。300SLの外観的特長は、なんといってもガルウイングである。この系譜の復活は、メルセデスAMG「SLS」の登場まで待たなければならなかったが、実はミッドシップでガルウイング、しかも市販される寸前まで開発が進んでいたクルマがあった。今回はその市販されなかったコンセプトカー「C111」の系譜を紹介する。

「300SL」を彷彿とさせるガルウイング!

 自動車史上に冠たるスーパースポーツの傑作、「300SL」を成功させつつも、その後は純粋なスポーツカーから長らく遠ざかっていたメルセデス・ベンツ。

 ところが、300SLの生産終了から6年を経た1969年のフランクフルト・ショーにて、300SLを連想させるガルウィングドアを持ったメルセデス製スーパーカーが、あくまで「コンセプトスタディ」という形態ではあるものの、輝かしいデビューを果たした。

●オイルショックでお蔵入りになった

市販されていたら、ロータリーエンジンを搭載したスーパーカーとして、人気を博したであろう「C111-II」
市販されていたら、ロータリーエンジンを搭載したスーパーカーとして、人気を博したであろう「C111-II」

 その名は、メルセデス・ベンツ「C111」。あくまでヴァンケル(ロータリー)エンジンとミドシップのエンジンレイアウト、あるいはFRPボディやエアコンディショナーなどの実験をおこなうためのテストベッドとして開発されたコンセプトカー、という触れ込みであった。

 同時代のグループ6/7スポーツプロトタイプマシンのごとく、スチール製パネルを溶接で立体的に組んだフロアタブを主構造とするモノコック、それにグラスファイバーのボディパネルを組み合わせるという方法論は、まさに当時のレーシングカーのそれである。

 ボディのスリーサイズは、全長4440mm×全幅1825mm×全高1120mm。この時代のスーパーカーのセオリーに従ってウェッジシェイプとされたスタイリングは、ダイムラー・ベンツ社内のデザインチームが担当。のちに同社デザインセンターの初代責任者となるブルーノ・サッコが、初めてチームリーダーとして指揮を執った作品といわれている。

 インテリアは豪奢な本革レザー張りとされる一方で、ステアリングホイールは当時のメルセデスらしいセンターパッドのついた、安全性は高いが少々野暮ったいものが与えられていた。

 また、このコンセプトカーの主目的のひとつである空調システムを完備していたこともあり、C111に対するシリーズ生産化への期待感は、自ずと高まってゆくことになるのだ。

 そして、もうひとつの目的。ミドシップに搭載されるヴァンケルエンジンは、ダイムラー・ベンツ社では既に1966年に完成させていたという3ローター。排気量は1ローター当たり600ccで、総計1800ccとされた。東洋工業(現マツダ)流のサイドポート式ではなく、NSU流のペリフェラルポート式で、独ボッシュ社と共同開発したインジェクションシステムを組み合わせて、最高出力は280ps。最高速はなんと260km/hを標榜した。

 ショーでの大反響を得たC111は、そののち有力ジャーナリストなどの識者に試乗の機会を提供し、そこでも高い評価を得たが、C111の展開は、それだけに留まらなかった。フランクフルトから約半年後の1970年ジュネーブ・ショーにて、のちに「C111-II」と称される改良型のC111が出展されたのだ。

 有識者たちがC111の数少ない弱点として指摘した後方視界の改善を含め、さらに洗練度を高めたボディには、4ローター化されたヴァンケルエンジンを搭載。1ローター当たりの排気量は変わらず600cc。最高出力は350psで、最高速度300km/h、0-100km/h加速は4.8秒というスペックも併せて公表された。

 動力性能を大幅にアップさせるとともに、より商品力も高められていたC111-IIでは、いよいよシリーズ生産化も期待されていたが、肝心のヴァンケルエンジンを搭載するがゆえに、思わぬ問題に直面することになる。1973年6月に勃発した第四次中東戦争から発生したオイルショックのため、過大な燃料消費を伴っていた当時のヴァンケルエンジンは、マツダを除く全自動車メーカーが開発をキャンセル。ダイムラー・ベンツ社首脳陣も、C111プロジェクトのお蔵入りを余儀なくされたのである。

【画像】市販化されてほしかった「C111」とは?(24枚)

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