2億5000万円の合法ドラッグ! まんまレーシングカーのメルセデス・ベンツ「CLK-GTR」開発秘話
生産台数わずか25台。新車当時2億5000万円ともいわれたスペシャルモデル
そして、メルセデスベンツには、もうひとつの仕事が残っていた。当時のFIA-GTのルールでは、最低一台のリーガルロードカーを作らなければならなかったが、それはFIAとの交渉で何とか1997年末に登録を終えている。
残るは、カスタマー向けの車両だった。
わずか25台のCLK-GTRロードカー。うち、5台はHWA(AMGの創始者であるハンス・ヴェルナー・アウフレヒトの会社でAMGメルセデスのレーシングカー開発やウルトラスペシャルモデルの製造を請け負う)によるロードスターバージョンである。
その生産は、1998年シーズンが終わってから始められた。1999年からは、新たなレギュレーションでFIA-GTが開催されることになっていたからだ。
また、1998年シーズンにはCLK-GTRの後継車である「CLK LM」も登場していたが、こちらは耐久レースでの使用を考えて、GTRの7リッターV型12気筒エンジンに換えてV型8気筒エンジンが積まれていた。しかし、ロードカーには再び、M120のV型12気筒エンジンが積まれている。
また、パガーニ「ゾンダ」や「SL73」でお馴染みの7.3リッターV型12気筒エンジンにHWAが換装した個体も2台あるといわれており、それらは「スーパースポーツ」と名乗っている。
ロードバージョンの生産は、1999年の半ばまで続けられたようである。ロードカーとして最低限必要な保安装備、そして助手席をやエアバッグを含む機能装備を施されて登場した「CLK-GTRロードスター」は、しかし、乗り降りにも非常な難儀を強いられる、公道のレーシングカーであった。
回転半径7.9メートルに至っては、もはやランスルーのガレージでもなければ引っ張り出すことも叶わない。おまけに3ペダルのシーケンシャルミッションと聞けば……。
多くの顧客が、ただ眺めるだけに徹したのも、むべなるかな。
もっとも、間近で眺められるだけでも幸運というものだが。
陽の光のもと、その肢体を伸びやかにさらしたCLK-GTRは、やはり、しばらく声にならないほどの存在の強さ、逞しさ、濃さ、大きさであった。
そして、それにも増して素晴らしいと思うのは、生産型のCLKモチーフをライトまわりやグリルにきっちりと残しつつ、かつメルセデスのイメージを損なわずに、レーシングカーとしての機能美を見事に表現しつくしたシルエットとスタイリングの美しさ、であろう。
特にドアから後ろ、リアウイングへと流れる合理的で潔く放たれたラインは、観る者を圧倒してやまない。
真横からみると、これがまた不思議で、「CLK」の前後を左右に引っぱり、天井もぐっと押しつぶして、今でいうところの「CLS」のようなサイドウィンドウをもった、どうみてもメルセデス・ベンツである。
ほとんど中身はCカーであり、カーボンファイバー強化樹脂など、レーシングマテリアルてんこもりの車体が、ひとたび気を落ち着けて眺めると、〈一風変わったメルセデス〉にしか見えてこないから不思議だ。
それもまた、ブランドのなせる技。我々は、マスクに輝くスリーポインテッドスターを認めただけで、ある一定の〈落ち着き〉を、たとえ相手がレーシングカーであっても、仮にフォーミュラマシンであっても、感じることができるのだと思う。
だとすれば、このクルマの勇姿は、日本の公道で見てみたいものである。
* * *
●Mercedes-Benz CLK-GTR
メルセデス・ベンツ CLK-GTR
・生産年:1998年
・全長×全幅×全高:4855×1950×1100mm
・ホイールベース:2670mm
・エンジン:V型12気筒DOHC
・総排気量:6898cc
・最高出力:612ps/6800rpm
・最大トルク:79.0kgm/5250rpm
・トランスミッション:6速シーケンシャル
●取材協力
DREAM AUTO
ドリームオート/インター店
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