ベントレー「ミュルザンヌ」がゴージャスであり続けた3つの理由とは?
ベントレーのフラッグシップである「ミュルザンヌ」が、2020年4月に、10年にも及んだモデルライフを終えることが分かった。最高峰ラグジュアリーセダンとして君臨し続けた、3つの理由に迫る。
ミュルザンヌがキング・オブ・ラグジュアリーである理由
ベントレー「ミュルザンヌ」は2020年4月下旬に生産を終了し、ベントレーのフラッグシップとしての地位を新型フライングスパーに引き継ぐことが決まった。
ミュルザンヌが世界最高峰のラグジュアリーセダンとして、10年間もその王座に君臨していたのには理由がある。その大きな理由を3つ挙げてみよう。
ミュルザンヌの開発は2005年に始まり、ベントレーデザインのスタジオで最初のデザインコンセプトが書き起こされた。その車両は、ホイールをはじめ、ベントレーのボディショップにおいて手作業で作られるエクステリアデザイン、新開発される象徴的な6.75リッターV8ツインターボエンジン、完全に刷新される電装系、新開発のシャシなど、インテリアもエクステリアも、過去の偉大なベントレーに敬意を払いながらも最新のデザインを採り入れたまったく新しいものを目指していた。
ベントレーではミュルザンヌを、「グランドベントレー」という位置付けであると公表し、社内的には「プロジェクトキンバリー」と呼ばれ、2009年の「ペブルビーチ・コンクールデレガンス」で世界デビューを果たした。
最高出力512ps、最大トルク1020Nmを発生する排気量6.75リッターのV型8気筒エンジンは、0−100km/h加速5.3秒で、最高速度は296km/hを実現。
このエンジンには、可変バルブタイミングシステム、気筒休止システムが初採用され、ほとんどの最新型自動車用エンジンのアイドリング回転数をわずかに上回る1750rpmのエンジン回転数で最大トルクに達するトルク特性を実現している。
また、軽量化と強化の目的で鍛造クランクシャフトからピストン、コネクティングロッドに至るすべての主要コンポーネントが再設計され、内部負荷および摩擦を低減することで、エンジンの応答性を向上させた。
しかし、ミュルザンヌがラグジュアリーの世界で最高峰といわたのは、実はこうしたパフォーマンスだけに由来するものではない。パフォーマンスはもちろんのこと、工芸品的なフィニッシュが半端ないのである。
●エレガントなフォルムを生み出すスーパーフォーミング
ミュルザンヌは、スチール製モノコックにアルミニウム製のドア、フェンダー、ボンネットで構成されている。ベントレーは、アルミニウムで流麗なボディラインを生み出すのに、スーパーフォーミングという航空宇宙産業に由来する工法を採用。
スーパーフォーミングとは、アルミ製パネルを500度に加熱し、空気圧をかけて整形する工法である。かつて、職人がアルミの板を叩いて出していたような複雑なプレスラインを、スーパーフォーミングによって生み出しているのである。
ベントレーの曲線的で逞しいデザインが施されたエレガントなフォルムは、こうして作り出されているのだ。
●手作業で仕上げる5800箇所の溶接部
製造は、英国クルーにおいて最初から最後まで手作業でおこなわれ、完成までに要する時間は400時間を優に超える。最初のホワイトボディの製造工程では、熟練した金属加工担当者が自らの手と目を使って、5800箇所の溶接部を丁寧に仕上げていく。
ルーフからDピラーを通ってリアハンチに流れ込む箇所では、専任のチームが接合部分を手作業でろう付けするが、この個所を仕上げるには人間の手による感触が重要で、塗装後には接合部は完全にわからなくなり、その見た目も感触も、まるで金属の塊から削り出されたような仕上がりとなる。
ミュルザンヌのボディを塗装する際は、その彫刻的な姿が均一に見えるように異なる厚みを持たせる必要があるため、一台一台手作業で塗料を吹き付けているのだ。
仕上げ塗装の後、さらに各車両は12時間かけてきめ細かい研磨剤で研磨され、その後、子羊の毛で磨きをかけ、「ベントレーミラーフィニッシュ」と呼ばれる鏡のようなボディ面となる。このボディに、手作業で完璧に磨きをかけて仕上げられたソリッドステンレススチール製ブライトウェアが取り付けられるのである。
●ミラーマッチされるベニヤ
ミュルザンヌのドアを開けると、ウォールナット、チェリー、またはオークの無垢材によるドアウエストレールや、さらに選び抜かれた各種ベニヤがふんだんに使用されており、その美しさは息を呑むばかりだ。
これらの木材はクルーに大切に保管されており、ベニヤの最終的な選択はクルーでおこなわれる。
ベニヤは、職人によってミラーマッチ(左右対称に配置)され、無垢材の下地として採用される前に、極めて美しい「模様のある」部位(自然にできた装飾的紋様)のみが選び出される。ミュルザンヌの内装を、まるで工芸品の域にまで高めているのは、このミラーマッチされたベニヤによるところが大きい。
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ミュルザンヌの製造に必要な400時間のうち、追加のオプションを検討する前の約150時間は、手作業での縫製、成形、仕上げによる豪華なレザーインテリアのためだけに費やされ、コントラストステッチを仕上げるだけでも、37時間を要するというこだわりようだ。
ミュルザンヌは、その道の職人によって途方もない時間を費やして生み出されている。だからこそ、トップ・オブ・ラグジュアリーであり続けたのだ。
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