新車の顔を大幅変更なぜ増えた? フルモデルチェンジ前にデザイン変更される訳とは
顔立ちが変わる理由にはメーカーの開発スケジュールの事情も
フロントマスクの変更理由として、メーカーのファミリーフェイス(共通デザインコンセプト)が変わったことも挙げられます。
例えばレクサス「CT200h」は2011年の発売後、2014年にフロントマスクを大きく変えました。レクサスの全車が新しいスピンドルグリル(糸巻状のグリル)を採用することになったので、CT200hもこのデザイン変更に沿って新しい顔立ちになったのです。
ほかにも、三菱「デリカD:5」は2007年に発売された後、2019年にはクリーンディーゼルターボエンジン搭載車のフロントマスクを刷新しました。
いまの三菱車に共通するダイナミックシールドの形状で、ボディパネルが側面からフロントマスクへ回り込むようなデザインです。そしてフロントグリル両側の回り込んだ部分に、LEDヘッドランプを縦方向に配置しています。
デザイン刷新の効果について、三菱の販売店スタッフに聞いたところ、次のようにコメントします。
「もともとデリカD:5は、マイナーチェンジをおこなうと、従来型のお客様が乗り替える傾向が強いです。購入から数年を経ても高い金額で下取りできるため、デリカD:5を何台も乗り継ぐのです。
その意味でフロントマスクを大幅に変えたマイナーチェンジは効果的です。多くのお客様が新型と考えてくださり、乗り替えていただきました」
このほか三菱では、「アウトランダー」や「RVR」も、ダイナミックシールドの考え方に基づいてフロントマスクを変更しています。
また、マツダ「マツダ6」は2012年に3代目「アテンザ」として発売されたモデルですが、2018年の改良でフロントマスクを大幅に変更しました。
これは、いまのマツダ車は「魂動デザイン」というコンセプトに基づいてデザインされていますが、そのコンセプトが新しい魂動デザインへステップアップしたからです。
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近年はSUVが人気のカテゴリとされています。そこでフロントマスクや外観をSUV風にアレンジしたグレードも増えました。
ホンダ「フリード」は2019年10月にSUV風の「クロスター」を加えています。好調に売れて、いまではフリードのうち全体の約30%をクロスターが占めています。
トヨタ「アクア」は2011年に発売されたモデルですが、2014年にSUV風の「Xアーバン」を設定しました。
このときにはSUVの定番装備とされるフェンダーアーチモール(フェンダーやボディの下側に装着されるブラックの樹脂パーツ)がディーラーオプション扱いで売れ行きが伸び悩みましたが、2017年にはこれを標準装着する「クロスオーバー」を設定しています。
フロントマスクもさらに変更して、ようやくSUVらしくなりました。
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マイナーチェンジでフロントマスクを大幅に変える背景には、フルモデルチェンジの周期が長期化していることも挙げられます。
前出のモデルの発売年をまとめると、デリカD:5は2007年、CT200hは2011年、マツダ6(旧アテンザ)は2012年となります。
ほかにも長寿モデルは存在し、トヨタのセダン「プレミオ/アリオン」はデリカD:5と同じく2007年、日産の高級ミニバン「エルグランド」は2010年、日産のコンパクトカー「ノート」は2012年という具合です。
このように発売から6年以上を経過すれば、途中で新鮮味が薄れたり、メーカーのファミリーフェイスが変更を受けることもあります。そこでマイナーチェンジにより、フロントマスクのデザインを大きく変えるのです。
新しいプラットフォームを採用して走行安定性を大幅に高めたり、衝突被害軽減ブレーキなどの先進装備を抜本的に進化させるには、フルモデルチェンジをおこなう必要があります。
しかしいまの自動車メーカーは、海外向けの商品開発、将来的な環境技術や自動運転技術などに力を入れる必要もあり、フルモデルチェンジの周期が長引いています。
この状況で新鮮味を保つため、マイナーチェンジでフロントマスクを大きく変えるのです。
つまり顔立ちを大きく変えるマイナーチェンジは、本来ならフルモデルチェンジをしたいのに、それができないメーカーの苦悩の表われともいえるでしょう。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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