全長30km以上!? 日本最長の私道を走る謎の巨大マシンとは
全長約30kmを超える日本最長の私道が山口県に存在するといいます。どのような私道なのでしょうか。
日本一の私道、どこへ向かって何を運ぶ?
山口県宇部市に、日本最長の31.94kmを誇る私道があります。ここは、関係者以外立ち入り禁止となっているようですが、一体何のために使われているのでしょうか。
山口県宇部市に本社を置く宇部興産株式会社が、この日本最長の私道の持ち主です。
「宇部興産専用道路」という名前がつけられたこの道路は、航空写真などで確認すると高速道路が通っているのでは、と錯覚してしまうほどケタ違いの規模となっており、とても私道とは思えません。
宇部興産は、100年以上の歴史を持つ東証一部上場企業で、建築に欠かせないセメント製造をはじめとした、さまざまな事業をおこなっています。そして、全長約32kmに及ぶ私道は宇部興産にとって欠かせない道路なのです。
では、なぜ宇部興産株式会社は公道を使わず、あえて私道を作ったのでしょうか。その理由は、「厄介な運搬ルート」と「ケタ違いの超大型トレーラー」が関係しています。
まず、宇部興産専用道路のルートは、瀬戸内海に面した車両基地である西沖整備場から、山口県美祢市の伊佐鉱山・伊佐セメント工場を目指すというものです。伊佐鉱山では石灰石が採掘され、伊佐セメント工場ではセメントの材料のひとつとなる、クリンカーを製造しています。
ここで厄介なのが、伊佐鉱山と伊佐セメント工場は、どちらも山口県の山奥にあるという点です。石灰石やクリンカーは、港に運ぶためまっすぐ南下する必要があるのですが、一般道や高速道路を巨大なトレーラーが通行するとしたら、渋滞に巻き込まれる、船の出港時間に間に合わない、交通事故、といったさまざまなリスクが伴います。
トレーラーは1日に何度も積荷を運ぶため、正確なスケジュール管理のためにも、自社専用道路が必要だったようです。
加えて、宇部興産専用道路を走る超大型トレーラーも大きく関係しています。
宇部興産専用道路を走るトレーラーは、日本では珍しい「ダブルストレーラー」と呼ばれる車両で、最大なんと「88トン」の積荷を運ぶことが可能です。
日本の公道を走行できる車両重量は、一般道路で最大27トン、高速道路で最大36トン、と道路法で規定されているため、完全にオーバーしています。事実上、「宇部興産専用道路の専用車両」となっています。
自社専用道路であれば、こうした重量制限を受けないうえに、事故を起こさない最大限の積荷を運ぶことができます。
ダブルストレーラーの運転は難しくないのでしょうか。宇部興産の広報担当者は、以下のように話します。
「当社のトレーラーは構造上後退ができないため、荷物の積み下ろし場などでは正確な運転技術が必要です。積載総重量は120トンにもおよび、600馬力級のけん引車を操るため、コーナーでは繊細な速度・アクセル調整が必要です。とくに雨天時は細心の注意が必要となります」
トレーラーのトランスミッションは、前進18段となっているそうです。シフトミスをすれば停止に繋がるため、登坂減速時には、とくに繊細かつ素早い操作が要求されるとのことです。100トンを超える超重量車の坂道発進は、「想像を超える難易度」「一番緊張する場面」といわれています。
また、前述の担当者は以下のようにも話します。
「宇部興産専用道路は、最高時速70キロとしています。騒音防止の観点から、道路内の複数区間で車線規制をおこなっているほか、急加速を禁止する区間なども設定しています。急停止できない特大車が最優先というルールがあります。
宇部興産専用道路はセメント生産ラインの一部であり、道路内で事故等があった場合、生産に重大な影響を与える恐れがあるため、安全を最優先したルールとなっています。
また、興産道路周辺にお住まいの人も大勢いらっしゃいますので、弊社の操業によりご迷惑をおかけすることのないよう、厳格なルールを設定し、周辺環境に与える影響を最小限にする努力をしています」
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私道というと、交通ルールに縛られない自由な道というイメージがあります。しかし、宇部興産専用道路は公道では達成できない目的のために整備された道であり、公道と同じレベルのルールがあるようです。
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