ツルツルギラギラはなぜ? メルセデスのデザイナーに理由を訊いてきました
メルセデス・ベンツのEVは、プログレス・ラグジュアリーで攻める
――Vision EQSはEVモデルの「Sクラス」という位置づけだと思いますが、EQブランドとそのほかのサブブランドとの差別化などはどのようになさっているのでしょう。
まず、マイバッハが「アルティメット・ラグジュアリー」、AMGが「パフォーマンス・ラグジュアリー」、メルセデスが「モダン・ラグジュアリー」というコンセプトです。そこにEQが「プログレス・ラグジュアリー」というコンセプトで棲み分けがなされています。
これらのすべてにメルセデス・ベンツのDNAが常に宿っており、サブブランドそれぞれで特徴を持っているのです。
――さきほどの料理のたとえと同じですね。
そうです。EQSのコンセプトは「プログレス・ラグジュアリー」ですので、革新的でありながらラグジュアリーの世界観も表現しなければなりません。もちろん内燃機関モデルとの差別化もしなければなりません。
まずVision EQSのデザイン上での問題は、「Sクラス」と比べ、構造上の問題から車高が20mmから30mm高くなりバランスが悪く見えることです。これはバッテリーを床下に敷き詰めなければならないからです。
そして人々が抱くラグジュアリーカーのイメージです。1950年代のクルマを想像してもらうとわかりやすいのですが、「ロングボンネット」「スモールキャビン」というのが、われわれが抱くラグジュアリーカーのイメージです。
高級車はV8やV12といった大排気量エンジンを搭載したパワフルなクルマでした。大きなエンジンを搭載するためにロングボンネットとなり、それがラグジュアリーのイメージとなったのです。
こうしたことに対して新たな定義を試みなければならなかったのがVision EQSです。
まず3ボックスのクルマ、つまりSクラスに比べていかに車高を低く見せるか。この解答が「ワンボウ・スタイル」のデザインです。サイドからみたプロポーションは、ひと振りの弓のようなシームレスなラインで描いています。
フロントとリアのオーバーハングは短くなっていますが、室内は広くなっています。また、車高の高さを視覚的に相殺するために、サイドステップを絞り込んでブラックにペイントしています。
こうしたプロポーションは、EV版の「Sクラス」になりうると考えています。
――ボディには凹凸がなく、全体的に滑らかでシームレスなラインですべてが繋がっていますね。これはどのような理由でしょう。
現在EVに求められているのは、航続可能距離です。つまりエアロダイナミクスは非常に重要なのです。ですから空力を非常に考慮したデザインになっています。
それと同時に、EQブランドで表現するラグジュアリーにチャレンジしています。これまでの高級車は、グリルやモールにクロームパーツを多用することでラグジュアリーを演出していました。
Vision EQSではクロームの代わりにデジタルでラグジュアリーを表現しています。内燃機関モデルのグリルにあたるブラックパネルには940個のLED、テールには230個のLEDが埋め込まれ、ボディのウエストラインのところをぐるりと一周、ライトベルトが囲んでいます。
ブラックパネルのLEDは、点灯するとフラットではなく奥行きを感じられるようになっています。また、ヘッドライトはホログラフィックレンズ・ヘッドライトを採用して、ヘッドライト部に異なるホログラフィ画像を生み出しています。
宙に浮かぶようなホログラフィ画像は、Vision EQSにさまざまな表情をもたらしてくれます。
ボディ表面はシームレスで凹凸がありませんが、これらの照明でデジタルな奥行き、立体感を創り出しているというわけです。
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インタビューの間中、日本で生活した4年間に覚えた片言の日本語で場を和ませてくれたホルガー氏。
ホルガー氏が若い頃、バウハウスの校長でもあった建築家ミース・ファン・デル・ローエの「Less is more」に影響を受けたのは間違いありません。来日して禅の精神を学んだことも、現在の彼のデザインに大きな影響を及ぼしているようです。
ホルガー氏のいう「メルセデス・ベンツのDNAをベースにスパイスを加える」というデザイン手法は、日本でいうところの「不易流行」と同義ととらえていいでしょう。
EQブランドだけでなく、メルセデス・ベンツはモデルチェンジする度に果敢にデザインの変革にチャレンジしてきました。しかもどこからどう見てメルセデス・ベンツらしさを損なうことなく。
今回のホルガー氏のインタビューで、EQブランドのデザインの方向性だけでなく、メルセデス・ベンツに脈々と受け継がれてきた哲学も改めて再確認することができました。
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