かつてのマツダ車大幅値引きはどうなった? 商品力が向上した今も「マツダ地獄」は続いている?

スカイアクティブ技術や魂動デザインが採用されて商品力がアップ

 新しいエンジンを開発しても、既存のプラットフォームに載せるのでは、エンジン側に妥協が生じます。外観においても、既存のプラットフォームに合わせてデザインされるので、大きな変更を加えることは難しいです。

 しかしすべてを同時に新しくすれば、さまざまなメカニズムやデザインが互いに協調して、妥協のない開発をおこなえます。

新世代商品の第1弾として登場した「CX-5」
新世代商品の第1弾として登場した「CX-5」

 問題は経営的なリスクです。開発時期を分散させず短期間に集中させると、開発費用の負担も一気に増えます。

 マツダは「モノ造り革新」をおこない、生産コストを下げるなどの工夫をすることで、未曾有ともいえる同時開発を達成しました。この効果は大きく、デザインから走行性能まで、いまのマツダ車は商品力を飛躍的に向上させました。

 これにともなってマツダは、従来の大幅値引きをやめました。いまは以前のような40万円を超える値引き販売はおこなっていません。

 そうなると以前のマツダ車を乗り継ぐ必要も薄れたのかといえば、実際はそうでもないのです。マツダディーラーのセールスマンは、次のように説明します。

「最近のマツダは値引きをしないといわれますが、実際には、いまでも値引きをする車種はあります。また値引き額が少ない代わりに、下取り車の査定額を上乗せすることも多いです。

 本当は値引きと同じく下取査定額も抑えたいですが、お客さまが他メーカーと条件を競争させたときなどは、対抗しなければなりません。そこで下取り車の査定額を上乗せするのです。

 そしてマツダ車は、とくに高い金額で下取りしています。マツダ車に乗るお客さまが、マツダと他メーカーで下取査定額を比べると、マツダのディーラーが高い査定額を提示するはずです。継続的にマツダ車に乗り替えていただくのがお得であるといえます」

 スカイアクティブ技術と魂動デザインになったいまでも、マツダのユーザーは、マツダ車に乗り続けるのが出費を抑える上では効果的です。

 マツダ車の査定額が高くなったといわれても、それは以前と比べたときの話で、いまのマツダ車がとくに高値で売却できるわけではありません。

 マツダが従来からのユーザーに便宜を図る理由として、マツダ車の売れ行きが伸び悩んでいることもあるでしょう。

 マツダは2012年に発売された先代「CX-5」から、スカイアクティブ技術と魂動デザインに基づく新しい商品展開を開始しました。

 先代CX-5の発売前後のマツダの国内販売台数を比べると、2010年が22万3861台、2018年は22万734台と若干ですが減っています。マツダ車の走行性能や質感は、以前に比べて大きく向上しましたが、ミニバンの「プレマシー」や「ビアンテ」を失った痛手も大きいのです。

 この状況では、マツダ車からマツダ車への乗り替えを有利にする必要があり、既存のユーザーを優遇する基本的な構図は以前と変わっていません。

 また「マツダ地獄」ですが、同様のことは多かれ少なかれ他メーカーにも当てはまります。ディーラーが自社製品を愛用する顧客を優遇して、有利な乗り替えを促すのは当然でしょう。

 マツダに関しては、以前は大幅値引きを露骨におこなってマツダ車への乗り替えを余儀なくされましたが、いまはやり方が少し穏やかになったということです。それでも現在のマツダが、国内販売において再建途上にあることは間違いありません。

 なおマツダ車を買うと有利なのは、残価設定ローンを使うときです。一般的に3年後の残価率(新車に占める残存価値の割合)は、新車時の40%から45%ですが、マツダでは基本設計の古い「マツダ6(旧アテンザ)」でも、3年後の残価が50%に達します。残価設定ローンでは残価を除いた金額を返済するので、残価が高ければ返済額を安く抑えられます。

 しかもマツダの残価設定ローンは金利が2.99%で、ほかの日本車メーカーの3.5%から6%に比べると低く抑えられています。

 このように残価設定ローンの条件を良くしているのも、露骨な大幅値引きをせずに、出費を抑えてライバル車に対抗するためです。マツダの本質はいまでも変わっておらず、損得勘定を踏まえて購入されるのが良いと思います。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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