わずか500台! レクサスのスーパースポーツ「LFA」がトヨタのクルマ作りに与えた影響とは

4.8リッターのV10エンジン搭載! 570馬力のLFAの乗り味とは?

 LFAのメカニズムは、「クルマは材料で決まる(成瀬氏)」ということから、基本性能に徹底してこだわっています。

「1LR-GUE」と名付けられたV型10気筒4.8リッターのエンジンはヤマハと共同開発され、徹底した低フリクション化や高効率化のために、560馬力/480Nm(ニュルブルクリンクパッケージは570馬力)のスペックはもちろん、レッドゾーン9000rpmという高回転型の特性、切れ味のある鋭いレスポンスが特長です。

ヤマハと共同開発されたV型10気筒4.8リッターエンジン
ヤマハと共同開発されたV型10気筒4.8リッターエンジン

 常用域ではトルクフルで扱いやすいですが、回せば回すほどパワーが湧き出てくる特性で、7000rpm以上はソプラノの効いた「天使の咆哮」と名付けられたサウンドも相まって、まさに痺れるユニットに仕上がっています。

 また、あまり知られていませんが、アイドリング時の燃費改善のために、片バンクを気筒休止させる機構も採用されました。

 トランスミッションはアイシンと共同開発された6速の2ペダルMTです。トレンドのツインクラッチではなくシングルクラッチを選択した理由について棚橋氏は、「ギアが噛みあう感覚にこだわりたかった」と説明しています。

 Dレンジではツインクラッチのようなシームレスなシフトではありませんが、MTモードでシングルクラッチの特性を理解して操作をおこなえば、スムーズに走らせることは可能です。

 フットワークは軽めながらも正確無比のステアリング、強靭ながらもカーボンモノコック特有の減衰特性を備えたしなやかなボディ、硬めですが軽やかに路面を捉えるサスペンションと、前後のアプローチアングルと最低地上高さえ注意すれば、想像以上の視界性能の良さも相まって、スーパースポーツながら気負いなく走らせることができます。

 成瀬氏は、「LFAは、妊婦の奥さんを横に乗せて、大阪から東京までノンストップで走っても大丈夫な快適性と気持ち良さを備えた」と語っていました。

 ブレーキはブレンボと共同開発されたCCM(カーボンセラミックマテリアル)ブレーキディスクとアルミ製キャリパーの組み合わせです。

「岩のように安心して踏めるブレーキ(棚橋氏)」で、超高速域からの制動やニュルブルクリンクを安定してラップできる性能、絶大な信頼を感じるタッチやフィーリングはもちろん、常用域でも普通に使えるフレキシブルさも備えています。

 筆者(山本シンヤ)は、今回の撮影のために久しぶりにLFAのステアリングを握りました。じつは乗る前は「10年の歳月にガッカリしたら嫌だな」と思っていましたが、細部を除けば掛け値なしで、いまでも十分通用すると感じました。

 今回乗ったモデルは、限定500台のなかでも50台のみに設定された「ニュルブルクリンクパッケージ」で、引き締められたサスペンション、専用タイヤ(ポテンザRE070)、軽量アルミホイール(BBS製)、空力操安を考慮したエアロパーツなどがプラスされています。

 ノーマルよりも走りに特化した仕様で、ハートに響く非日常の性能を持ちながら、日常域ではそれをいい意味で感じさせず誰でも自然に乗れるフレキシブルさと、ロングドライブでも苦にならない快適性を備わっていました。この二面性こそが「トヨタの味」のひとつではないかと感じました。

※ ※ ※

 LFAが生産終了して以降、2014/2015年のニュルブルクリンク24時間耐久レースに「LFA Code X」という実験車両が参戦していました。

 見た目こそLFAの形でしたが、中身はフルカーボンモノコックにプッシュロッドサスペンションを採用。筆者は当時、「LFA Code Xはなんに役立つのだろう?」と疑問に思っていましたが、じつはこれが東京オートサロン2018で初披露された「GRスーパースポーツコンセプト」の原型だったのです。

 GRスーパースポーツのチーフエンジニアである古場博之氏は、「このクルマは『どこでも』、『誰でも』、『安心して』高性能を手の内で走れるようにする必要があります」と語っているように、LFAの血は次世代に着実に受け継がれているのです。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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