「日本車がもっとも輝いた」平成元年、女性の免許保有が生んだニーズ 車史で振り返る平成

核家族化が進んだ日本で新たなカテゴリーブーム

 この後、平成6年(1994年)以降には、新しいカテゴリーとされるミニバンが続々と発売されます。平成6年(1994年)にはホンダ「オデッセイ」、平成8年(1996年)にはホンダ「ステップワゴン」、トヨタ「イプサム」、トヨタ「タウンエースノア」「ライトエースノア」という具合です。

ミニバンをファミリー層に浸透させたホンダ「オデッセイ」

 日本では核家族化が進みましたが、多人数乗車の可能なミニバンであれば、2世帯で移動できるから好調に売れたのです。

 あるミニバンの開発者は、「男性が転勤した先で地元の女性と知り合い、結婚することが多いです。そうなると自宅のそばに、奥さんの実家があります。男性にとっては義理の両親ですから、気を使って、2世帯で移動できるミニバンを買うのです。座る位置にも一定の傾向が見られます。男性が運転して、助手席には奥さんの父親が座ります。やはり気を使って移動中に相手をするのです。2列目は奥さんの母親と子供、3列目は奥さんと2人目の子供です。子供が並んで座ると喧嘩をするので、2/3列目に別々に座ります」と解説してくれました。

 ミニバンは自転車を積むのにも重宝しています。ここでも別のメーカー開発者から、リアルな話を聞けました。「最近では子供が巻き込まれる凶悪な事件などよくニュースで見かけるようになりました。そうなると親としては夜に子供を徒歩で学習塾に通わせるのは不安です。そこで自転車を使います。ただし帰るころに雨が降り始めると、自転車では帰宅できません。この時にちょうど良いのがミニバンです。3列目を畳むと荷室が広がるので、子供を学習塾まで迎えに行き、自転車も乗せて帰宅できます」

 親子2世帯の移動と、雨の日に自転車を積んで学習塾から帰宅するニーズは、多くのファミリーユーザーが求めているものでした。ミニバンはそのニーズに最適だったので、好調に売れました。

 平成に入って女性の運転免許保有者が増えたことも、子供の送り迎えなどに便利に使えるミニバンが普及した要因でした。1970年は運転免許保有者総数に占める女性比率は18%でしたが、平成2年(1990年)には38%、平成12年(2000年)には41%に達します。

 したがって仮に1970年頃にミニバンが発売されても、主力のカテゴリーにはならなかったでしょう。クルマが普及して、女性の運転免許保有率も高まったところで登場したため、好調に売れたのです。

 見方を変えると、昭和の時代には男性の持ち物だったクルマが、平成に入るとファミリーカーは妻の意見で選ばれるようになりました。夫が自宅のクルマを使うのは週末だけですが、妻は買い物や子供の送迎に毎日使うからです。このカーライフスタイルの変化により、ミニバンが好調に売れました。男性が弱くなった、ではなく奥さんに対して優しくなったことも、ミニバンの普及をうながしたと思います。

 ミニバンの成功を受けて、コンパクトカーや軽自動車にも、背の高いミニバン風の車種が増えました。平成5年(1993年)に初代モデルを発売したスズキ「ワゴンR」もその典型です。今の軽自動車は背の高い車種を中心に、国内で販売される新車の36~38%を占めます。

 平成の初期のクルマはそれまでセダンが主流だった時代から、クルマにも空間を求めた時代でした。

【了】

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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