“9年ぶり全面刷新”の新型「コンパス」発表! “FF”だけどジムニー級「地上高」&渡河性能408mm! “四駆”じゃない…けどしっかりジープな仕上がりに?
2026年10月7日、ステランティスジャパンはジープブランドのコンパクトSUV新型「ニュー・コンパス」を発売しました。9年ぶりのフルモデルチェンジを果たした同車はどのようなモデルなのでしょうか。山本シンヤ氏がレポートします。
新型「コンパス」発表!
「ジープの世界観やタフな佇まいは欲しい。けれど、日常でラングラーほどのヘビーデューティな走りを飼いならす自信はない」
都市部を中心に、そう考えるユーザーは少なくないはずです。 そんなリアルなニーズを受け止め、9年ぶりのフルモデルチェンジを果たしたのがジープ新型「ニュー・コンパス(以下新型コンパス)」です。
何と日本向けモデルは、割り切りの「前輪駆動(FF)」のみの設定です。
「骨格も心臓部もヨーロッパ生まれ、しかもFF。それって本当に“ジープ”の走りを名乗れるのか? 普通のSUVになっちゃってたらどうしよう……」
正直、試乗前はそんな一抹の不安を抱いていました。しかし実際にステアリングを握ると、ジープというブランドへの深いリスペクトと、ステランティスのエンジニアたちの見事な“調律の技”を実感しました。
走り始めてまず驚かされるのは、足まわりのセットアップが兄弟車たちと全く異なる点です。同じSTLA Mediumを採用するプジョーのようなしなやかな猫足や、シトロエンの“魔法の絨毯”のようなフワリとした浮遊感とは明らかに一線を画しています。
新型コンパスのダンピングは初期から引き締められており、マンホールや舗装の継ぎ目を踏み越えると「ド・ド・ドン」と硬質なショックがダイレクトにシートへ届きます。
数値的な乗り心地の滑らかさだけで評価すれば、「良くも悪くもワイルド」な足まわりと言わざるを得ません。しかし、これが不思議と嫌味にならないのです。
大径タイヤを履かせたサスペンションが上下にしっかりストロークし、路面のうねりに対してボディが適度に「ユサユサ」と揺すられる。そのゆったりとした挙動が、まるでラダーフレーム構造の本格クロカンに乗っているかのような錯覚をもたらします。
「なぜ、これほどフレーム車っぽいフィーリングが出るのか?」
開発陣に尋ねると、ダンパーの減衰力特性だけでなく、ステアリングの中立付近の座りやレシオに至るまで「アメリカンな大陸ツアラー」を意識したジープ専用のセッティングが徹底して施されているとのこと。
さらにリヤのトーションビームはコの字断面のビーム内部にもう1本スタビライザーバーを通した凝った構造になっており、ロールやねじれに対して骨太な剛性を発揮する仕掛けが施されています。
切り欠きのないクラムシェル型ボンネット越しに、左右のフェンダーの峰を見下ろしながら走る前方視界。そして、やや重めでドッシリとしたステアリングインフォメーション。視覚から入る「ジープらしさ」と、身体に伝わる「骨太なフィジカル感」が完璧にシンクロしているため、ドライバーは「そうそう、ジープってこういうクルマだよね」と納得させられてしまうのです。
もしこの硬さが他の都会派クロスオーバーだったら手厳しく評価されたかもしれませんが、コンパスにおいては最高の“ブランド体験”として成立しています。

パワートレインはどうか。最高出力136psの1.2リッター直3ガソリンターボに、16kW(22ps)の電気モーターと6速デュアルクラッチトランスミッション(eDCT)を内蔵(システム合計145ps)は、プジョーやシトロエンなどのステランティスのモデルでは定番ユニットです。
ストップ&ゴーの多い市街地では、モーターが威力を発揮。発進から30km/h付近まではEV走行でスルスルと走り出し、マイルドHEVでありながら“ほぼ”フルHEVの特性を見せます。
そこからアクセルを深く踏み込んでビックリ。日常走行のアクセル開度2〜3割程度でも、小排気量3気筒にありがちな甲高いノイズではなく、吸気脈動を巧みに作り込んだような「ドロドロドロ……」という野太く重厚なビートがキャビンに少しだけ響きます。
本物のマルチシリンダーエンジンと同じとは言いませんが、どこかアメリカンな鼓動感を演出しているのです。
ワインディングや高速道路へステージを移すと、新世代「STLA Medium」プラットフォームの基本素性の高さが際立ちます。
微小舵角からのステアリング応答は過敏すぎず、大陸を横断するロングツアラーのようにどっしりと落ち着いた直進性を披露します。ひとたびコーナーへノーズを向ければ、ロールは適度に許容しながらも外側輪がしっかりと粘り、破綻する気配を見せません。
歴代ジープ最高の「Cd値0.29」という優れた空力性能も相まって、高速巡航時の風切り音も巧みに抑え込まれています。
「いくら走りが良くても、前輪駆動(FF)のジープで本当に大丈夫なのか?」という疑問に対して、開発陣は明確な回答を用意しています。 新型コンパスは前輪駆動ながらも、最低地上高は200mmスズキ「ジムニー」(205mm)並みなほか、渡河性能408mm、アプローチアングル20度というクラストップ級の対地障害角を確保しています。
さらに、FFモデルとして初めて「セレクテレイン(Selec-Terrain)」を標準装備。 走行状況に応じて「AUTO」、「SPORT」、「SNOW」、「SAND/MUD」を選択でき、電気モーターの強みである“ミリ秒単位での緻密なトルク制御”を活用することで、空転しやすい路面でもフロントタイヤのトラクションを瞬時に最適化します。
興味深いのは、ADAS用のセンサー配置です。新型コンパスではオフロード走行時の飛び石やヒットによる破損リスク、そして水深408mmの冠水路走行を考慮し、あえて高い位置にセットされています。
要するに「水深のある場所へわざわざ突っ込む使い方は推奨しないが、万が一のゲリラ豪雨や冠水でも、電装系や吸気系を守り切って生還できるタフネスは担保する」。この設計思想こそ、まさにジープならではのこだわりでしょう。
先代からホイールベースが150mm延長されたことで、後席の居住性は大幅に向上。身長170cm超の大人がリヤシートに座っても足元には十分なゆとりがあり、先代比+20mmのレッグルーム拡大は数値以上の広さを実感させます。荷室容量もファミリーユースやアウトドアギアの満載にも余裕で応えてくれます。
そして、ジープ伝統の“遊び心”も全開です。車体の東西南北に合わせて刻まれた「N・S・E・W」の文字、シフトダイヤルの真ん中に配置された「N」、フロントガラスの隅に描かれた北斗七星や南十字星、窓ガラスやホイールに隠れたジープのアイコン……。
オーナーがウンチクを語りたくなるような演出力は「解っているねぇ」と感心するばかりです。

そろそろ結論にいきましょう。コイツはライトだけど紛れもなくジープ一族です。もちろん「四駆が欲しくない…と言えば嘘になる」というのが筆者(山本シンヤ)の本音です。
しかし、そうした想いを抱かせつつも、同じジープでありながらも「ガチなジープ(Off-road Line)」と「ライトなジープ(Urban Adventure Line)」の役割を、ここまで明確に割り切ってみせたこと自体が、現在のステランティスにおける極めてクレバーな戦略だと感じます。
もしこれが新興ブランドやアイデンティティの曖昧なメーカーであれば、「四駆のないSUVなんて」と一蹴されて終わっていたかもしれません。しかし、ジープには背骨として君臨し続ける「ラングラー」という絶対的な本物があり、どんな過酷な道をも切り拓いてきた85年もの歴史があります。
その揺るぎないブランドの蓄積があるからこそ、日常に寄り添うライトなモデルであっても骨太な世界観を損なわず、多くのユーザーに「これもまたジープだ」と納得させることができるのです。
かつてレネゲードがそうであったように、多くのユーザーが本当に求めているのは、過酷な岩場を走破する機会そのものではなく、「ジープの持つ冒険心を、日々の生活の中で無理なく楽しむこと」です。
そのためには裾野を広げ、誰もが気負わずジープの世界へ飛び込める間口をつくる。そして、この高効率なFFモデルがしっかりと支持されることこそが、未来に向けて純度100%の“ガチなジープ”を守り続けるための大きな原動力にもなります。
価格は「Altitude(アルティテュード)」が520万円、「Summit(サミット)」が570万円から。日々の街乗りをスマートにこなしつつ、週末には日常の少し先へと連れ出してくれる頼もしい相棒として、実に完成度の高い一台と言えるでしょう。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。



























































































