スマホの電池と何が違う? トヨタ×パナソニック合弁PPESに聞く「電動車の心臓部・車載バッテリー」の凄さとは
自動車業界が100年に1度の大変革期を迎える中、電動車の心臓部とも言える「バッテリー」の技術動向に大きな注目が集まっています。今回は、車載用角形リチウムイオンバッテリーで高い実績を誇るプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)に取材を実施。トヨタ自動車、パナソニック、そして三洋電機という3社のDNAを受け継ぐ同社に、モビリティ用バッテリーの最前線と描く今後の戦略を聞きました。
車載バッテリーの現在地は? HEV用バッテリーでトップシェアを誇るプライムプラネットエナジー&ソリューションズに聞いた
電動化の波がかつてないスピードで押し寄せる現代において、自動車の動力源は急速に多様化し、私たちの生活にも定着しつつあります。
現在、市場にはハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、そして燃料電池自動車(FCEV)など、さまざまな電動車がラインナップされています。
ガソリンエンジンとモーターを巧みに組み合わせるHEV、外部からの充電が可能で日常的な近距離移動を電気だけでカバーできるPHEV、エンジンを一切持たずに大容量バッテリーのみで駆動するBEVなど、それぞれの仕組みや得意とする役割は大きく異なります。
これらの電動車すべてにおいて中核となるのが「車載用バッテリー」です。

今回取材に訪れたプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(以下PPES)は、2020年にトヨタ自動車とパナソニックの合弁会社として設立され、三洋電気が培ってきた角形の車載用電池技術をベースに、開発から製造までを一貫して手掛ける企業です。社名には「かけがえのない地球(プラネット)をクリーンで豊かな社会にして未来へ引き継ぐ」という強いビジョンが込められています。
単なるバッテリーの供給にとどまらず、各種コンポーネントやシステム展開までを幅広くカバーしているのが特徴です。とくにHEV用バッテリーの分野においては、15年以上にもわたる長年の出荷実績を持っています。
自動車に搭載されるバッテリーは、その車種の特性や使われ方に合わせて最適な性能が求められます。PPESが展開する製品群は、大きく分けて「高出力型バッテリー」と「高容量型バッテリー」の2種類に分類されます。
HEV向けを中心に採用される高出力型(ハイパワーバッテリー)は、エンジンの動力をアシストするために、瞬間的なパワーの出し入れが頻繁かつ瞬間的に行われます。そのため、優れた高出力密度と極めて高い充放電特性が求められます。
一方で、BEVやPHEV向けを中心とする高容量型バッテリーは、電気の力だけでより長い距離を走行する必要があるため、限られたスペースにどれだけ多くのエネルギーを蓄えられるかという「高エネルギー密度」が最重要視されます。
こうしたモビリティ用バッテリーに求められる高度な性能や、それぞれの開発におけるアプローチの違いについて、PPESのコーポレートコミュニケーション部 部長 木村毅典氏は次のように語ります。
「電池の技術上、出力を大きく取るか、容量を大きく取るかの両立は難しいため、設計を分けています。
HEVのように頻繁な充放電を繰り返し、少ない電池で一気に電流を流す必要がある場合は、内部抵抗を極力下げて出力を出しやすい設計にします。具体的には、材料の密度を低くして化学反応できる面積を広げ、電解液を多く入れています。
一方、BEV向けは電池を多く積むため、密度を高くする必要があります。正極材の圧縮などを工夫し、隙間が埋まるように大小の粒子を混ぜるなどして容量を稼ぐ設計をしています。また、これらをうまく両立させたプラグインハイブリッド(PHEV)用電池の製造も行っています」
私たちが日常的に使用しているスマートフォンやノートパソコンなどの家電製品にも、同じくリチウムイオンバッテリーが広く使われています。
しかし、これら身近な電池と自動車に搭載されるモビリティ用バッテリーとでは、求められる安全基準や耐久性のハードルが決定的に異なります。
自動車は、炎天下の過酷な暑さから極寒の環境まで、あらゆる厳しい気象条件の下で走行し、さらには走行中の激しい振動や衝撃にも耐え抜かなければなりません。また、数年から十数年という長期間にわたって性能劣化を最小限に抑える耐久性も必須です。
そして何より、万が一の事故の際にも発火やトラブルを防ぐための、極めて高い安全基準をクリアすることが絶対条件となります。
身近な家電用電池と比較して、車載バッテリーが直面する厳しい条件や、安全性・信頼性をいかにして担保しているのか、木村氏は次のように話しています。
「一番の違いは『耐久性』と『耐環境性』です。スマートフォンの電池は2、3年で充電容量が70%程度に落ちてしまいますが、車載用は15年保証が求められるため、劣化しにくい材料を使用しています。
また、車は過酷な環境で使用されるため、エンジンの振動や道路の微振動を受け続けても部品が疲労破壊しない設計が必要です。マイナス20度から60度という極端な温度環境下でも万が一にも停止することは許されないため、安全性が非常に高く設計されています。
さらに、スマートフォンは電池を1つしか使いませんが、車用は数十個から数百個繋げて使います。1つでも不良があればシステム全体が機能しなくなるため、1つひとつの電池のばらつきが許されず、非常に安定した品質管理が求められます」

群雄割拠の車載バッテリー市場において、PPESは他にはない独自の強みとポジションを築いているといいます。その根幹にあるのが「角形電池」へのこだわりです。
現在、車載バッテリーの形状には大きく分けて円筒形と角形がありますが、その決定的な違いについて木村氏は次のように説明します。
「円筒形電池は缶が丸いため、電池内部の圧力に対する耐性が高く、外から入ってきた電子を受けやすいという特徴があります。そのため単体での高容量化には向いているのですが、車のように400Vといった高電圧を出そうとすると、3.7Vの電池を直列や並列で大量に繋ぐ必要があり、結果的に部品コストやレイアウト面で課題が出てしまいます。
一方の角形電池は、大容量のものを少ない数でシンプルに繋ぐことができるため、システムとしての効率が良く、車載用途に非常に向いています。
ただし、角形電池を車載用として成立させるには大きなハードルがあります。サイズが大きくなっても、電池内部の化学反応を常に均一に保たなければならないという極めて高度な制御技術が求められるのです。PPESは、長年の蓄積されたノウハウによってこの難易度の高い技術を着実に進化させ、安全性と性能を両立した高品質な車載バッテリーを提供し続けています」
また、30年先を見据えた全固体電池などの基礎的な先行開発は親会社であるトヨタ自動車やパナソニックが行い、PPESは向こう10年程度の量産を見据えた開発に注力するという明確な役割分担により、開発スピードと品質を両立させています。
自動車メーカーと密接に連携し、二人三脚でバッテリー開発を進めてきた経験は、車両システム全体との最適なすり合わせを可能にしています。単体のバッテリーセルの性能を追い求めるだけでなく、車載システム全体としての効率や安全性を高める総合的な技術力こそが、PPESの最大の武器となっているようです。
激化するグローバル競争の中で、PPESが市場においてどのような立ち位置にあり、どのような優位性を持っているのか、木村氏は次のように分析しています。
「15年前から車載用電池を作り続け、重大な不具合を起こしていないという安全性の実績が最大の強みです。また、HEV用のリチウムイオン電池では世界でもトップクラスのシェアを持っており、グローバルな自動車メーカーからも高い信頼をいただいています」
車載バッテリーに求められる最高レベルの安全性と品質を実現するためには、高度な「設計・製造・検査」のプロセスが不可欠です。PPESのものづくりの現場では、素材の選定段階からセル、モジュール、そしてシステム全体の設計に至るまで、一切の妥協を許さない開発が行われています。
それを支えているのが、「大部屋活動」と呼ばれる部署の垣根を越えたプロジェクト体制と、社内に深く浸透しているトヨタ生産方式(TPS)です。専門の部署を通じてTPSの考え方が共有され、問題の本質を突き詰めて解決する文化が根付いています。
製造工程においても、微小な異物の混入が重大な性能低下や欠陥につながるため、極めてクリーンな環境での生産体制を徹底。完成した製品が出荷される前には多角的な視点から厳格な検査体制が敷かれており、不良品の流出を未然に防ぐ仕組みが構築されています。
こうした高い品質を維持し続けるための、PPESならではのものづくりの哲学について、木村氏は次のように話しています。
「安全性を最優先とし、設計から製造、検査に至るまで、三洋電機、パナソニック、トヨタの3社が持つ技術の一番良いところを結集したラインを構築しています。
開発の進め方についても『大部屋活動』と呼ばれるプロジェクト体制をとっており、設計、生産技術、製造などすべての部署からメンバーが集まりチームとして活動します。
『自分の領域ではないから分からない』という姿勢ではなく、全員で領域を越えて品質向上に取り組む前向きな風土があります。
また、社内にはトヨタ生産方式(TPS)が広く浸透しています。TPSを広めるための専門部署を作り、全社的に研修などを行って、お互いに教え合いながらモノづくりを進めています。これはパナソニックの考え方とも通じる部分があり、良い環境で融合しています」
今後のモビリティ電動化は、持続可能な社会に向けた大きな潮流の中で、さらに加速していくことが予想されます。
全固体電池やより高性能な液系リチウムイオンバッテリーなどの実用化と普及が進み、電動車のあり方そのものが大きく変わる転換期を迎えるとも言われています。PPESとしても、現状の成功にとどまることなく、次世代バッテリーの開発を強力に推進しているといいます。
エネルギー密度のさらなる向上、充電時間の短縮、そしてライフサイクル全体を通じた環境負荷の低減など、カーボンニュートラル社会の実現に向けて取り組むべき課題は多岐にわたります。
モビリティの未来を切り拓く展望や、カーボンニュートラル達成に向けたPPESの長期的な戦略について、木村氏は次のように語っています。
「『クリーンで豊かな社会を未来へ』というビジョンのもと、電池の製造過程でも温室効果ガスを削減し、自然エネルギーを積極的に活用する取り組みを進めています。2030年に向けて、環境負荷の少ない工場づくりをさらに推進していきます」

今回の取材で、車載バッテリーがいかに高度な技術と緻密なものづくりに支えられているかを再認識することができました。
スマートフォンなどの身近な電池とは一線を画す厳しい基準をクリアし、過酷な環境下でも安全かつ安定してエネルギーを供給し続ける車載バッテリー。
単に車を動かすための部品にとどまらず、地球規模の環境課題を解決する重要なピースとして、車載バッテリーの絶え間ない進化はこれからも続いていきます。
こうしたバッテリー技術の革新が、電動車全体のさらなる普及と性能向上を力強く牽引し、私たちが乗るモビリティの未来をより豊かでクリーンなものへと変えていくことでしょう。





























