軽トラからBEVまで同一ラインで製造 ダイハツ九州が実践する多品種生産の裏側 中津工場を現地取材

ダイハツ工業の国内拠点において中核を担うのがダイハツ九州です。大分県の中津工場は、同社の軽自動車生産の約80%を占める重要拠点として稼働しています。本記事では、ダイハツ井上社長やダイハツ九州の日野社長の話、そして現地取材で見た、複雑な混流生産を可能にする現場の工夫や、働きやすい環境づくり、そして独自のモノづくり概念である「SSC」について解説します。

ダイハツ九州中津工場を現地取材 多様性と働きやすさを追求する基幹拠点の全貌とは

 2026年7月上旬、ダイハツ工業ならびにダイハツ九州は、同社の生産拠点である中津工場を公開しました。
 
 ダイハツ九州は、グループ全体の国内生産の約半数を担当する子会社で、膨大な型式を流す多品種生産ラインの実態や、作業者の負担を徹底的に軽減する自動化・DXの取り組みなど、次世代を見据えた自動車製造の最前線を解説します。

ダイハツ九州における多様性と働きやすさを追求する基幹拠点の全貌とは
ダイハツ九州における多様性と働きやすさを追求する基幹拠点の全貌とは

 2025年度におけるダイハツグループ全体の国内生産台数は、4つの生産拠点合計で約89万台です。ダイハツ九州はその約半数にあたる台数を担っており、軽自動車全体で見ると約77%を製造する国内最大の生産拠点です。その他の国内拠点としては、滋賀(竜王)工場第2地区、京都(大山崎)工場、本社(池田)工場第2地区が存在します。

 人員体制について、ダイハツ九州の全従業員数は4904名。地域密着型の運営を推進しており、全従業員のうち92%にあたる2853名が大分および久留米での現地採用です。

 歴史を振り返ると、同社のルーツは1960年に設立された前橋製作所(群馬県)に遡ります。当時は「ミゼット」や特装車の生産を行っていました。1977年に「ダイハツ車体株式会社」へ商号変更を実施し、ハイゼットシリーズの一貫生産体制を確立。大きな転機となったのは2004年の大分県への移転です。生産能力の拡張、次世代工場への対応、ダイハツグループにおける西日本の中核拠点を目指すという理由から、現在の中津工場(第1工場)が稼働を開始しました。

 2026年1月からは新たな企業スローガンとして『みんなから選ばれる会社になろう』を掲げています。「あの会社で働きたい」と人が集まり、「あの会社はいいね」と地域から愛され、「いいクルマを作っているね」とお客様から信頼される会社を目指す方針が示されています。

 現在のダイハツ九州の生産網は、大分県の中津第1工場・第2工場、福岡県の久留米工場という3つのラインで構成されています。中津工場は広大な敷地を有し、土地面積は約130万平方メートルに達します。工場から約2kmル離れた場所には中津港があり、2008年9月に開通した専用道路を通じて、完成した車両は専用船で関西や名古屋、東日本方面へ環境に配慮したモーダルシフトで海上輸送されています。

 中津第1工場は、3つのプラットフォームを用いた商用車や特装車の多品種生産を主体としており、124の型式(4プラットフォーム・3シルエット)に対応。一方、2007年に稼働した第2工場は、2つのプラットフォームを用いた軽乗用車専用の工場として位置づけられ、54の型式(2プラットフォーム・4シルエット)を生産しています。中津工場の年間生産能力は合計で46万台です。

 福岡県に位置する久留米工場は2008年に稼働を開始し、車両の心臓部となるKFエンジンのアッセンブリー生産を行っています。さらに、シリンダーヘッドなどの機械加工部品、駆動系の鋳造粗材、CVTやMTの基幹部品の製造を一手に引き受けています。

ダイハツ九州の中津工場での取り組みとは
ダイハツ九州の中津工場での取り組みとは

 中津工場の大きな特徴は、極めて複雑な混流生産を効率的に処理している点です。第1組立ラインでは、トラック、カーゴ、BEV、キャンバスといった構造が大きく異なる車種が同一ラインを流れます。これらの車両が完成するまでの時間差は最大で約95分にも及びます。

 この構造・工数差を埋めるため、工場内には全車種共通のメインラインに加え、特定の車種だけを経由させる「可変ライン」や「バイパスライン」が設けられています。複雑な組付けを要するトラックは専用ラインを経由させることで、全体の工数差を吸収する仕組みが構築されています。

 また、エンジン搭載工程では、ミッドシップ、フロント駆動、リアモーターといった異なる3つの駆動方式を一つの設備で対応。車種ごとに専用のパレットを使い分け、リフターの同期位置を調整することで、多様な形状のユニットを正確に組み付けています。リヤアクスル搭載工程においても、リーフスプリング構造やトーションビームなど全4車種の異なる足回りを同一工程で搭載するため、台車のアタッチメントを瞬時に切り替える工夫が施されています。

 特装車についても、2022年から全17車種の全ラインナップ一貫生産を実現しています。特装車はすべて社内で設計され、専用工区での内製化により開発から生産までをスルーで行うことで、納車までのリードタイム短縮を図っています。

BEVのバッテリー搭載工程でも革新的な工夫が見られた
BEVのバッテリー搭載工程でも革新的な工夫が見られた

 現場で働く従業員の高齢化は、製造業全体が抱える課題です。ダイハツ九州の第1工場ボデー課では、10年後の2036年には50代以上の作業員が半数を占めると予想されています。この変化を見据え、「高齢者でも作業できる環境作り」が急ピッチで進められています。

 例えば、特装車のパネルバック組付け工程では、従来は人が重たい溶接機を持ち、屈伸運動を伴いながら1日約3920点もの溶接を手作業で行っていました。現在ではこの作業をロボットへ受け渡し、人は部品をセットしてボタンを押すだけの作業へと改善されました。これにより作業者の負担は劇的に軽減されています。

 BEVのバッテリー搭載工程でも革新的な工夫が見られます。重量約310kgのバッテリーを扱うにあたり 、現場の担当者は「従来は重いバッテリーを上空へ持ち上げて搭載していましたが、現在は安全性を最優先に配慮し、2柱リフトで車体側を下げる運用へと発想を転換しました」と説明。

 さらに、「基本は立ち姿勢だった作業環境を整備し、座り姿勢での作業を可能にすることで身体的負荷を最小限に抑えています」と語るように、徹底した作業者目線の改善が施されています。

 この工程では、簡易的なチェーンを車体の穴に通したり 、床面に刻印された誘導線を目印にしたりすることで、大型部品の精密な位置合わせをスムーズに行える仕組みも導入されています。また、昇降用のポンプを「手動タイプ」から「電動タイプ」へ変更するなど、細部まで負担軽減が図られていました。

 さらに、業務効率化の一環としてDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みも進められています。検査課では、紙の資料を廃止してノートPCやタブレットを活用し、多車種にわたる複雑な検査手順の教育を効率化。

 また、工場内には「多目的スペース」という明るく広い空間が新設されました。担当者は「みんなが集まり、会話が生まれる、そこから始まるコミュニケーションを目指しました。

 情報共有のデジタル化では、知りたい情報をすぐに取得できるよう環境を構築し、スマートフォンやタブレットでの展開活動を進めております」と解説。休憩時間には従業員が動画を観たり、ゲームを楽しんだりするなど、ONとOFFの切り替えを明確にすることで集中力と品質の向上に繋げています。現場には「作る人は“作る”ことに集中する」という方針のもと、ラクをすることが品質向上に繋がるという思想が根付いています。

工場内には「多目的スペース」という明るく広い空間が点在。、ONとOFFの切り替えを明確にすることで集中力と品質の向上に繋げている
工場内には「多目的スペース」という明るく広い空間が点在。、ONとOFFの切り替えを明確にすることで集中力と品質の向上に繋げている

 ダイハツ九州のモノづくりを語る上で欠かせないのが「SSC(シンプル・スリム・コンパクト)」という活動です。第1工場ではかつて、無人運搬車(AGV)を多用した重厚長大な設備により、故障による長期間のライン停止が頻発。この反省から、第2工場では徹底した設備のシンプル化と工程の短縮が行われました。結果として第2工場は、第1工場と比較して建物面積を3分の1に縮小し、設備投資額を40%削減することに成功しています。

 SSCの効果はソフト面にも波及しています。ボデー工程と組立工程、塗装工程の間に存在していた壁を取り払ったレイアウトを採用し、工程間をスルーで往来できるようにしました。これにより、リアルタイムな情報交換が実現し、異常発生時にも迅速な対応が可能になっています。

 ダイハツ九州は、車両開発から部品調達、製造までを九州内で完結させる体制を構築し、地元の部品メーカーと連携を深めています。社内の「メカニズム道場」で培った技術は取引先にも共有され、地域全体のモノづくりレベルの向上に寄与しています。

ダイハツ工業の井上雅宏社長が想いを語った
ダイハツ工業の井上雅宏社長が想いを語った

 取材の最後には、ダイハツ工業の井上雅宏社長から以下のような挨拶がありました。

「中津工場は、日本の働く方々の細かなニーズにお応えする商用車を生産する第1工場と、軽自動車の良品廉価を追求しSSC(シンプル・スリム・コンパクト)を極めた第2工場は、お客様に寄り添い暮らしを豊かにするという開発理念を体現する源泉です。昨年には新型『ムーヴ』『ミライース』に加え、当社初の量産電気自動車となる『e-ハイゼット』『e-アトレー』を発売しました。

 足元の事業環境は、欧米の通商政策変更やインフレ、新興国における新規参入メーカーの台頭など、変化を続けています。このような環境下だからこそ原点に立ち返り、ユーザー目線での小さなクルマづくりに徹底してこだわります。無駄を排除したSSCのクルマづくりを起点に、地域の部品メーカーや物流会社と強固なサプライチェーンを構築し、雇用創出を含めた地域社会への貢献を続けてまいります。

 本日の中津工場はまさにその基幹であり、SSCのマザー工場として国内外の拠点へ知見を展開しています。カーボンニュートラルへの対応についても、内燃機関や電気自動車などマルチパスウェイの考え方で進めます。各国の事情により移行のペースは異なるため、多様な視点でお客様に必要とされるモビリティをタイムリーにお届けしていく所存です」

※ ※ ※

 ダイハツ九州は、徹底した作業者目線の改善と多品種生産のノウハウを武器に、今後も日本のモノづくりを牽引していく存在であり続けるでしょう。

【画像ギャラリー】ここでダイハツ車が作られている! 工場内部に潜入!(30枚以上)

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Writer: くるまのニュース編集部

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