世界初!超電導モーター搭載の「水素GRカローラ」 富士24時間レースで実戦に挑む 今後は鉄道総研とも技術展開
トヨタはスーパー耐久第3戦富士24時間レースに、世界初となる「超電導液体水素ポンプ」を搭載した水素エンジンGRカローラで参戦します。これまでの歩みを振り返りつつ、マイナス253度の極低温環境を活かした超電導技術のメリットや、インタンク化による構造進化、今後のリニア駆動化への挑戦を解説します。
世界初!超電導モーター搭載の水素GRカローラが富士24時間レースで実戦に挑む
トヨタはカーボンニュートラル社会の実現に向けた「マルチパスウェイ」戦略のもと、モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」を推進しています。
その象徴的な挑戦が、水素エンジン車の開発です。
2021年の参戦開始から6年目を迎える今回は、次世代の核となる超電導技術を世界で初めてレース環境に投入し、厳しい実戦を通じてその性能と耐久性の検証を行います。

トヨタは、地域や顧客のニーズに合わせた選択肢を提供するマルチパスウェイの視点から、水素を直接エンジンで燃焼させる技術開発を2021年よりスーパー耐久シリーズで続けています。
水素エンジンは燃料電池車(FCEV)と比べてシステム構成がシンプルなため、将来的に安価な水素車を提供できる可能性を持っています。また、内燃機関ならではの音や振動といったクルマの魅力を作れる点も大きな特徴です。
初期の2カ年(2021〜2022年)は気体水素燃料を採用しており、市販車「MIRAI」の高圧気体水素タンクを4本搭載するシンプルな構成でした。
当時は富士スピードウェイでの航続距離が約12周にとどまり、充填インフラである移動式ステーションがピットに入りきらず駐車場を使用するなど、運用面での課題を抱えていました。

航続距離の延長とインフラの効率化を目指し、2023年からはマイナス253度の「液体水素」システムへと転換を図ります。
車両後部に真空2重層の断熱タンクを搭載し、液体水素をポンプで圧縮して約10MPaまで昇圧させた後、エンジンの熱を利用した気化器で気体に戻して供給する構造を構築。この液体水素化により、航続距離は約20周へと向上しています。
さらに2024年には、パッケージング効率をより高めるため、国内初となる楕円形液体水素タンクを導入。
タンクの楕円化によって容量は220Lへと拡大し、航続距離を約30周まで伸ばすことに成功しています。同時に充填インフラもコンパクト化され、ガソリン車と同様にピット内での充填が可能となったほか、充填スピードも気体水素時代の3倍を実現しました。

超電導モーター導入のメリット
2026年の富士24時間レースにおける最大の進化点が、「超電導液体水素ポンプ」の実戦投入です。
超電導は極低温下でのみ発生する現象であり、通常は冷凍機などの冷却設備を必要としますが、液体水素を搭載する車両は燃料自体がマイナス253度の極低温環境を有しているため、追加の冷凍機なしで超電導を適用できるという強みがあります。
京都大学の協力を得て専用設計されたこのモーターは、電気抵抗ゼロの特性により99%以上の超高効率を誇ります。
超電導モーターの採用は、車両のパッケージに大きな進化をもたらしており、従来はタンク上部に配置されていた大型のモーターユニットなどの補機が不要に。これによりモーターとポンプユニット一式をタンクの内部に完全に収める「インタンク化」が可能となりました。
部品の小型化・軽量化が進んだだけでなく、重量物の搭載位置が大幅に下がったことで低重心化が図られ、車両の運動性能向上が見込まれています。さらに、タンクを貫通する入熱源であったフランジがなくなったことで、外部からの熱侵入による水素の気化(ボイルオフ)を抑える構造へと進化しました。
このインタンク化によって生まれたスペースを活用し、タンク容量はこれまでの220Lから最大300Lへと拡大。これは従来の1.3倍以上の容量であり、搭載量としては富士スピードウェイを40周走行できる水準に達しています。
タンクの形状についても、将来の市販化の際にはSUVなら丸型、セダンなら床下に収まる楕円型といったように、車両パッケージに応じて最適な形状を選択できるよう基礎開発が重ねられています。
なお、リアドアの窓には超電導モーター(SCM)の作動状態をリアルタイムで示す外部ディスプレイが装着され、稼働状況が視覚的に確認できるようになっています。

実戦で見えた課題とリニア駆動への挑戦
一方で、この回転型の超電導技術はまだ発展途上の段階にあります。現在の仕様では、モーターの回転運動をポンプの往復運動に変換するためにギヤやクランク機構を必要としますが、マイナス253度の極低温かつ無潤滑に近い環境でギヤをスムーズに回し続けることは容易ではなく、耐久性に課題が残されています。
このため、今回の24時間レースにおいては、決勝中に1回のポンプ交換作業を行う前提で織り込まれています。
また、タンク内でギヤが回転することで液体水素が撹拌され、想定よりもボイルオフ(気化ガス)が増大する現象が発生しているといいます。タンクが300Lに大型化したことで内部の液体が大きく揺れる「スロッシング」の挙動も変化しており、防波板による抑制が追いついていないことも気化を促す一因に。
これらのロスがあるため、40周分の水素を積んではいるものの、実際のレースでの走行は32周程度にとどまる見込みであり、増えた燃料を有効に使い切るための根本対策が必要とされています。

この課題を解決するため、トヨタはすでに「リニア駆動型超電導ポンプ」の開発に着手しています。
リニア駆動型は直線運動で直接ポンプを動かすため、摩耗の原因となるギヤ機構が不要となり、耐久性が大幅に向上します。
さらに部品削減による小型軽量化が進むほか、液体の撹拌がなくなるため、ボイルオフ量を大きく低減できる見込みです。このリニア化に向け、リニアモーターカーの開発で長年の超電導知見を持つ鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が新たなパートナーとして参画しました。
現在は実機が実際に作動する段階まで開発が進んでおり、今回の富士では液体窒素で実際にリニアポンプを駆動させる技術デモが展示されました。

なお、今回のレース車両はトランスミッションに「DAT(Direct Automatic Transmission)」を水素エンジン車として初搭載しており、変速操作を自動化することでドライバーの負担を軽減し、モータースポーツの裾野を広げる取り組みも同時に進められています。
※ ※ ※
水素エンジンGRカローラは、気体から液体水素、そして世界初の超電導モーターの採用へと、短期間で着実な歩みを進めてきました。
発展途上の技術ゆえに、今回の24時間レースでは耐久性やボイルオフの管理といった実戦ならではの課題にも直面していますが、それらを隠すことなくオープンにし、次世代のリニア駆動化へ繋げる姿勢は、まさにレースの現場を「クルマを鍛える場」とするトヨタの開発姿勢そのものです。
カーボンニュートラルの多様な選択肢を現実のものとするため、仲間と共に挑む水素カローラの24時間にわたる戦いに注目が集まります。
Writer: くるまのニュース編集部
【クルマをもっと身近にするWEB情報メディア】
知的好奇心を満たすクルマの気になる様々な情報を紹介。新車情報・試乗記・交通マナーやトラブル・道路事情まで魅力的なカーライフを発信していきます。クルマについて「知らなかったことを知る喜び」をくるまのニュースを通じて体験してください。
























