渦を壊して風を届ける!? デンソーの新空調技術「マイクロジェット」の仕組みとは EVトラックの過酷な環境を支える「バッテリー温調システム」も初展示 人とくるまのテクノロジー展2026

デンソーは自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2026 YOKOHAMA」にて、インパネの薄型化に伴う空調の課題を解消する気流制御技術「マイクロジェット」と、大型電動モビリティ向けの「バッテリー温調モジュール」を一般向けに初公開しました。

「効率」を追求した、2つの新技術を公開

 デンソーは、2026年5月27日にパシフィコ横浜(神奈川県)で開幕した自動車技術展「人とくるまのテクノロジー展2026 YOKOHAMA」に出展し、「基盤技術」「モビリティ領域」「拡大貢献領域」の3つの分野で同社が展開する、様々な技術や製品を紹介しました。

 その中で、2つの新たな技術・製品を一般向けに初公開。1つは車室内のデザイン性と快適性を両立させる薄型空調レジスタ向けの“気流制御技術”、2つめは日本の物流を支える大型商用車の電動化に貢献する革新的な“温度制御システム”です。

“渦の成長”を止めて風を届ける「マイクロジェット」

 今回初公開された「マイクロジェット」は、薄型空調レジスタの効率を高める気流制御技術です。

 近年の自動車インテリアのデザインにおいては、車室内空間を少しでも広く確保することや、ドライバーの視界をより広く確保することが求められています。

 そのため、インストルメントパネルや空調の吹き出し口であるレジスタを薄型化する傾向が強まっています。

 しかし、吹き出し口を薄幅化すると、物理的な特性として同じ風量であっても風が周囲に広がりやすくなってしまい、乗員にしっかりと届かなくなるという課題がありました。

 風が届かないからといってファンの出力を上げてしまえば、騒音の原因になるだけでなく、不要な電力を消費することになり省エネ性能を損ないます。

 この相反する課題を解決するために開発されたのが、気流の周りに発生する渦を抑制して風の到達性を高めるマイクロジェット技術です。

デンソーの気流制御技術「マイクロジェット」
デンソーの気流制御技術「マイクロジェット」

 同システムでは、吹き出し口の上下に非常に小さな数ミリほどの流路が設けられており、そこから微小な気流を噴射します。

 担当者は流体ダイナミクスの仕組みを下記のように解説します。

「拡散の原因となる大きな風の渦が、この流路を流れる気流によって崩壊します。マイクロジェットによって渦を壊してあげることで、渦の成長を止め、上下に広がっていくのを防ぎます。それによって風の到達性を上げることができます」

 ブースには、この技術の有無による風の感じ方の違いを体感的に理解できるデモ機が用意されています。

 デモ機の前に立ってみると、マイクロジェットなしのではほとんど風を感じられない位置でも、マイクロジェットありでは風がまとまって届いているのを実感することができました。

 風のまとまりを保つことができるため、少ない空調風量であっても乗員は十分な快適性を得られます。これは空調システム全体の省電力化、車両全体の省エネルギー化に直結します。

 担当者は「電動車などが増えるにつれ、インパネや吹き出し口の薄幅化に対する需要は、今後ますます高まっていくと思います。スペースの確保やキャビンデザインにおける自由度など、空間の価値創出といった面でも、貢献していくことができる技術だと考えています」と語ります。

物流の脱炭素化を加速させる「バッテリー温調モジュール」

 2つめは、今回初展示された電動大型モビリティの走行性能向上やバッテリー寿命の延長に貢献する「バッテリー温調モジュール」です。

 日本の経済や人々の暮らしを支える物流業界において、エネルギー消費量の大きい長距離輸送大型トラックの脱炭素化は、カーボンニュートラル社会を実現するための最重要課題の一つに挙げられています。

 その解決策として電気自動車(BEV)や燃料電池車(FCEV)といった電動大型トラックの導入が進められていますが、乗用車とは比較にならないほど過酷な環境で稼働する大型商用車には、特有の技術的ハードルが存在します。

 大型の電動トラックは、重い荷物を載せて長い距離を走行するため、駆動用バッテリーを常に高出力で使用し続ける必要があります。この際、バッテリーは大量の熱を発するため、従来よりも圧倒的に高い冷却能力が求められます。

 また、バッテリーの性能を最大限に引き出し、過酷な運行条件下でも安定した出力を維持するためには、バッテリーの温度を常に最適な範囲に精密に制御しなければなりません。

 温度管理が不適切であれば、走行性能が低下するだけでなく、高価なバッテリーの寿命を著しく縮めてしまう原因になります。

 デンソーはこの課題を解決するため、これまでのカーエアコン開発や熱交換器開発で培ってきた高度な技術を結集し、高い冷却・加温性能を持つ温度制御システムを構築しました。

デンソーの「バッテリー温調モジュール」
デンソーの「バッテリー温調モジュール」

 今回開発されたバッテリー温調モジュールは、バッテリーに冷温水を循環供給することで内部温度をコントロールする製品です。

システムの最大の特徴は、ヒートポンプサイクルやラジエーター、ヒーター、ポンプなど温度制御に必要な複数の機能部品をコンパクトな一つの筐体にまとめ、車両のキャビン用空調システムから完全に独立させた点にあります。

 展示会場の担当者は、この独立型の構造について次のように解説しました。

「このシステムは、空調システムと独立した形でひとつの筐体として車両に配置することができます。これにより、車室内のエアコンの効き具合などに一切影響を与えることなく、大型の商用バッテリーに対して常に最適な温度制御を行うことができます」

 この温調モジュールには、デンソーならではの省エネルギー技術が盛り込まれています。

 内部には、冷媒を用いて熱を移動させる冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)と、外気を活用して効率よく水を冷やすラジエーターサイクルの2つの冷却経路が備わっています。

 これらを走行環境やシーン、外気温の状況に応じて賢く切り替えることで、不要なエネルギー消費を徹底的に抑制します。

 担当者は「例えば春先や秋口など、外気温が十分に涼しい時には、電気を多く消費する冷凍サイクルを動かすことなく、ラジエーターサイクルだけで温調水を効率的に冷やしてバッテリーをコントロールします。これにより非常に高い省エネ性を実現しています」と語ります。

 冷凍サイクルを作動させる高負荷時においても、同社独自の高効率設計が光ります。市場に流通している同等の冷却能力を持つ一般的な製品と比較して、エネルギー効率を示す成績係数であるCOPを20%以上も向上させることに成功しました。

 仕様としては、冷却性能および加温性能ともに10kWという高い能力を誇りながら、本体サイズ幅850mm×奥行き600mm×高さ350mm、重量100kgというコンパクトな設計を実現しました。

サイズあたりの冷却性能において業界トップレベルを達成しており、限られた車両スペースへの搭載を容易にしているとのことです。

 バッテリー温調モジュールは、トラック・バス、農機など様々な大型モビリティに適用可能です。2025年10月に発売された、日本初の量産燃料電池大型トラックである日野「プロフィア Z FCV」で採用されており、実績を重ねています。

 また、蓄電設備においても運用でき、今後さらに活躍の場を広げていくことが期待されます。

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Writer: くるまのニュース編集部

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