先進技術だけじゃない、自動車メーカーが過去のクルマを大事にする理由とは

レース車両はキレイに修復、ラリー車両はベコベコのまま 

 モータースポーツの車両も、日本グランプリに出場し数周だけとはいえポルシェの前を走って知名度を高めた「プリンス・スカイラインGT」をはじめ、サファリラリー参戦車両など多くの車両が保存されています。

あえてベコベコのまま保管されているラリー車両

 そんな車両を見て気が付いたのは、レース車両とラリー車両の保存状態の違い。レース車両が万全の見た目なのに対し、ラリー車両のいくつかは車体にヘコミがあったりフェンダーがなかったりと、きちんと修復されていないのです。理由があるのでしょうか?

 これについて中山さんは「実は分けています」と教えてくれました。

 レーシングカーはスタートの状態と同様に修復する一方で、ラリー車は『フィニッシュラインコンディション』といってゴールした状態を保つ修復をおこなっています。これは車体のダメージ自体がラリーを戦った勲章として考え、その実績を称えるためにあえてダメージを残してレストアしているのだそうです。

 もちろんダメージはそのまま残しますが、車体やメカニズムはしっかりと修復され、ダメージを受けた部分にはサビ止めなどの処理が施されているとのこと。「レストア時はシワになった鉄板などダメージを受けた部分にステッカーを張るのが実は難しい作業」と裏話も教えてくれました。

 ちなみに以前は、この保管庫に空調がなかったので展示車両へのサビやカビの発生が悩みのひとつだったそうです。しかし現在は空調完備となったので、安心して長くコンディションが保てるようになったといいます。

 日産ヘリテージコレクションは予約制ですが一般にも公開されおり、ウェブからの申し込みで来訪可能。タイミングによってはレストアした車両の同乗試乗体験もできるというから、なんとも太っ腹ですね。

 今回の取材では、自動車メーカーというのはクルマを作るだけでなく文化を作る企業だということがいっそう強く理解できた気がしました。

【了】

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Writer: 工藤貴宏

1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。執筆で心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はマツダ CX-60/ホンダ S660。

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