先進運転支援システムの標準装備や電動化といったクルマ本体の高性能化に加え、原材料費や輸送費の高騰から、国内では新車価格が非常に高くなりました。
　
　いっぽう、すでに日本で製造中止となった旧モデルのなかには、簡素で実用に特化しているために途上国で現在も販売されているものがあり、そのひとつがパキスタンで販売されるスズキのコンパクトバン「ボラン」です。
　
　現代とは思えぬ質素さについて、SNSなどで話題となっています。

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　ボランは1982年に登場しました。発売から現在に至るまで、フルモデルチェンジは一切せず、現在も新車で購入が可能です。

　同年に日本で登場した軽商用バン「エブリイ」初代がベースで、スズキのパキスタン法人であるパック・スズキが現地生産しています。

　ボディサイズは全長3255mm×全幅1395mm×全高1845mm、ホイールベースは1840mm。

　現代の軽自動車よりもかなり小さく、途上国の狭くて険しい道路でも取り回しのしやすいコンパクトサイズながら、5人乗りを実現しています。

　エクステリアは一切の飾りを廃し、初代エブリイの特徴ともいえるシンプルでスクエアなスタイリング。フロントフェイスは角目2灯の大きなヘッドライトに簡素なバンパーを備えるのみ。40年前のエブリイ登場当時の面影を残し、素朴で味わい深いデザインです。

　ボディサイドは大きな窓とスライドドアがあるほか、小ぶりな樹脂製ドアハンドルに手動調整ミラー、Bピラーには昔懐かしいサイドマーカーランプを備えただけで、至ってシンプルです。

　両側スライドドアが装備されていますが、当然パワースライドやイージークローザーなどの機構はなく、ウインドウも引き違い式の手動で、フロントにもパワーウインドウはありません。

　そして、インテリアはさらに簡素な仕立てとなっており、豪華さや上質さはゼロです。フロアカーペットやルーフ・ピラーなどの内張も省略され、外板がむき出しです。

　助手席のグローブボックスなどいくつかの収納はありますが、加飾やデザインのアクセントなどもないインパネには最低限の情報を表示する120km／hメーターが装備されるのみ。エアコンは非装備であり、吹き出し口も存在しません。

　ドライバーが触れる部分は、極めてシンプルな大径4本スポークのステアリングと、サイドブレーキとシフトノブ程度。革巻きやウッドなどは当然ありません。

　その一方、現行型ではシートやドアにはブルーのカラーが配され、内装のワンポイントになっています。

　先進支援の類もゼロで、エアバッグやサイドインパクトビーム、ABSなども設定すらありません。唯一フロントにシートベルトがあるものの、リアにはオプション設定もありません。

　機能装備にはBluetoothやUSB接続、MP3にも対応するラジオデッキが装備されており、この点は唯一現代に適合した装備といえます。

　パワートレインは最大出力37馬力・最大トルク62Nmを発揮する796ccの直列3気筒エンジンに4速MTを組み合わせ、後輪駆動です。

　現在新車で販売されているモデルは、5人乗り乗用モデルに加え、最大積載量550kgを確保した2人乗り商用モデル「カーゴ」の2タイプをラインナップしています。

　パキスタンでの価格は194万パキスタンルピー（約97万円・バン仕様は4000ルピー高）で販売されています。

　そんなボランについては、新車価格の高騰に疲弊する日本のユーザーも注目しているようで、「これでいいから日本で売ってほしい」「スズキの新興国市場モデルはグッとくるのばかり」と、極めて安価で実直なパッケージが高い評価を得ているようです。

　また、「海外でしか売ってないんだよな」など、日本で展開されない点について惜しむ声も見られています。

　さらに、「オシャレだし仕事用にめちゃくちゃいい」「手軽に使う軽自動車はこのくらいでいいよね」など、昔のままのスタイリングがむしろオシャレだとする意見や、手頃な手のうち感を評価する人もいます。

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　途上国では登場から数十年経過した旧モデルが今でも販売されていることは珍しくありません。

　これは未舗装で狭隘な道が多く大きなボディサイズが必要ないほか、陳腐化した簡素な設計により、手持ちの工具やパーツがあれば簡単に整備・保守ができること、さらに長年の販売により、保守部品や修理ノウハウが蓄積され、維持がしやすいためです。

　しかしスズキは2024年10月、ボランの後継となる「エブリイ」を発表。11月から現地で販売を開始しています。現在のところボランも併売されているようですが、もしかするといよいよ販売終了も近いのかもしれません。