トヨタの「小さな高級車」がスゴい! 「センチュリー」並み“匠の手作り”ボディ×旧車デザインの「斬新ドアセダン」! 直6搭載の「オリジン」とは
市場ではレトロな装いを施したクルマに人気が集まっていますが、2000年にトヨタが販売した「オリジン」は、他のレトロカーとは一線を画す内容で生み出され、現在も語り草になっています。どのようなクルマだったのでしょうか。
スゴいのは「レトロデザイン」だけじゃない!
現行型のトヨタ「ハイエース」や、100系「ランドクルーザー」などのグリルやバンパーを変え、気軽にレトロ調スタイルへと変更する製品やコンプリートカーは、アフターマーケット市場で高い人気を得ています。
一方、メーカー自身がレトロ調モデルを出す場合も、前後の意匠を別パーツ変えてクラシックな雰囲気を与える方法が多用されます。
この場合、費用がかかるボディパネルの金型変更を行わないよう、前後の樹脂でできた部位を交換するケースがほとんどです。
例えば、日産「マーチ ボレロ」、ダイハツ「ミラジーノ」、三菱「ミニカトッポ タウンビー」、スバル「ヴィヴィオ・ビストロ」「インプレッサ・カサブランカ」などがあげられます。
他には、三菱「パジェロジュニア フライングパグ」といった、フェンダー変更など大掛かりな外観変更を伴うパターン、ミツオカ「ビュート」など、オリジナル車のドアや窓以外はほぼ外装を替えるパターン、そして車種そのものをレトロ調で開発する日産「Be-1」「パオ」「フィガロ」などのパターンもあります。
このようにたくさんのメーカー謹製レトロカーがありますが、中でも凝りに凝って登場したのがトヨタ「オリジン」です。
オリジンは、トヨタの「自動車生産累計1億台達成記念車」として2000年に登場した4ドアセダン。ベースは同時期に同社が販売していた、後輪駆動セダンの「プログレ」です。
外観は1955年デビューの初代「クラウン」をモチーフとしており、丸目2灯のマスクや独特の形状を持つグリル、丸みを帯びたルーフライン、車体横まで大きくラウンドしたリアウィンドウ、トランクリッド脇に立つテールフィン(1959年以降の「後期型」で見られた造形)など、初代クラウンの特徴を再現しています。
さらに初代クラウンが採用していた、リアドアのヒンジが後部に備わる「観音開きドア」までも実現していたのです。
そのためオリジンの外観を見て、ベース車がプログレであることを推し量れるものは皆無。
旧モデルに寄せたレトロカーは数あれど、オリジンでは外装パネルすべてを新設計としていたのですから、気合の入り方が違っていました。
しかもオリジンの生産には、トヨタの最高級車「センチュリー」の生産ラインを担当するスタッフから選ばれたメンバーが担当。メーカーの発表では、「クラフトマンの『匠の技』により、高品位、高品質を確保」とうたわれていました。
その一例が、手作業で生み出されるボディパネルです。
フロントフェンダーやクォーターまわりのボディパネルの製作は、量産プレス技術では難しかったため、分割で成形したのちクラフトマンの高度な溶接技術によって一体化されているといいます。
外板塗装にも大きなこだわりがありました。塗装後に全面に水研ぎを行なって平滑面を作り、さらにその上に塗装を繰り返した「5層コート」を行なって、深く輝きのある塗装品質を確保していました。この作業は、当時のセンチュリーの生産と同等の工程です。
内装では、ダッシュボードやパネル類はプログレそのままでしたが、本革シートは意匠を変えたほか、センターコンソールも本革巻きに。いずれも縫い目のピッチにまで気を配り、見ても触れても高品質を感じられる仕上がりです。
各部に配置される木目はもちろん厳選された本木目。ダッシュボード中央に光るアナログ時計も、専用品が奢られていました。
「GOA」と呼ばれる安全ボディに搭載されるエンジンは、可変バルブタイミングリフト機構「VVT-i」を備え、最高出力215psをマークする3リッター直列6気筒の「2JZ-GE」。
これにABS、トラクションコントロール、ブレーキアシストなどの安全装備も充実していました。つまりプログレのそれを引き継いだ動力性能・安全性は、2000年当時の最新モード。外観はクラシックながら、中身は最新モデルだったのです。
凝った外観と設計、手作業が多い生産工程によって、オリジンの新車販売価格は700万円とされました。
2000年当時、「クラウン ロイヤルサルーン」が378万円、オリジンと同等の装備を持つプログレの「NC300 ウォールナットパッケージ」が365万円、センチュリーの標準仕様車が935万円。
ということを考えると、オリジンがいかにお金をかけて作られたクルマかうかがい知れます。なお、1000台限定で販売されましたが、生産台数はそれより少し多いくらい、と言われています。
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同じレトロカーでも、お手軽に作っていないオリジン。
しかも小さなセンチュリーのような高級車として作られたエピソードは、現在も語り草になっています。
そのため中古車市場でも人気が高く、2024年8月現在、200〜300万円台を中心に販売されているようです。
今後、ここまで凝ったメーカー純正レトロカーが生まれる可能性は低いため、気になった人は探してみてはいかがでしょうか。
Writer: 遠藤イヅル
1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。
「小さな高級車」と聞くと、プログレ?と思ってしまった。
プログレと同じ様にならなければ良いのですが。