斬新「カクカクSUV」登場! なぜ「シンプルさ」求める? ジムニー、ランクルなど人気に… 理由は?
近年SUVのデザインは、曲線で有機的なものから、無骨で四角いデザインのものが再び注目を浴びています。カクカクデザインのクルマの魅力とはどのようなものがあるのでしょうか。
最近人気? カクカクSUVとは
いま自動車業界で“売れる”クルマの条件となっているのが、「カクカク系」です。
SUVを筆頭に、軽トールワゴンでもこのテイストが加味されたモデルが多くなっています。
昨今で言えば、2018年に登場したスズキ「ジムニー」シリーズの現行型がそのパイオニアと言えるのではないでしょうか。
ジムニーは先代モデルとは趣向をガラリと変えて、2代目モデルに近いスクエアなボディデザインを採用。
これが功を奏して、開発者や営業担当も予期できなかったほどの大ヒットに繋がっています。
特にユーザーに女性を増やしたのは、間違いなくデザインの影響があるようです。
ジムニーに限らず、久しぶりに再々販モデルがリリースされたトヨタ新型「ランドクルーザー70」や新型「ランドクルーザー250」。
そしてピックアップトラックで大ヒット街道を驀進中の三菱「トライトン」もカクカク系です。
なぜ、カクカク系はそんなにユーザーの心を惹きつけるのでしょうか。
カクカク系SUVの源流と言えば、大戦中に戦地で活躍したウイリス「MB」とフォード「GPW」といういわゆるJeepが挙げられます。
周知の通り、Jeepはその生産性や輸送性を高めるため、一切の虚飾を排してデザインされています。
当時の自動車はラグジュアリー志向でしたが、兵器たるJeepは必要な機能部品以外は一切付いておらず、シンプルのひと言。
四角い豆腐のようなボディにフロントフェンダーが付いているだけのようなカタチをしています。
しかし、このスクエアなカタチは車両周囲にある障害物をいち早く認識できる上に、オフロードを走っていても自車がどういう状態にあるのかが直感的に把握できるというメリットを持ち合わせていたわけです。
平和な時代になると、そのデザインと機能性の両立が評価され、「機能美」という言葉で讃えられました。
以降、オフロード走行を標榜するクルマのほとんどがJeepをお手本として造られ、「ランドクルーザー」や「ジムニー」、日産「パトロール」、いすゞ「ビッグホーン」、三菱「パジェロ」といった名車が生まれています。
しかし1990年代に入ると、こうしたシンプルさは敬遠されるようになります。
それは“SUV”の台頭によるものです。
そもそもスポーツ・ユーティリティ・ビークルという正式名称のこのカテゴリーは、ピックアップトラックにキャンパーシェルを載せて、ワゴンタイプの四輪駆動車と同じ使い方ができるように工夫されたのがスタート地点でした。
しかし、その後に登場した“ライトクロカン”と融合し、乗用車ライクなハンドリングと流麗なフォルムを目指すようになったのです。
それから30年以上が経って、超高級ブランドさえもSUVを出すようになった現代では、SUVにはすっかり“非日常”や“特別感”が無くなってしまったとも言えます。
自動車市場ではSUVはかつてのセダンのようなスタンダードな存在となり、どのメーカーでも主流はSUVという時代になってしまいました。
そんな中で、“原点回帰”を謳って登場したのが現行型ジムニーです。
さらに、ランドクルーザー各車も原点回帰を開発コンセプトの筆頭に挙げており、古き良き時代の四輪駆動車に戻ろうという空気感が自動車業界に漂っているのは周知の通りです。
これらのヒット車に共通するのは、四輪駆動車本来の魅力を大切にしようという考え方です。
ボディを現代の保安基準、安全基準の中で許される限りスクエアにして、フロントガラスも立て気味にしています。
サイドパネルは屹立しており、多少はアクセントラインが入っているものの、ほぼ平面。
インパネのラインも水平にして、できるだけ素っ気のないインターフェイスに仕上げています。こうすることで、かえって機能美が際立っています。
そんなデザインや雰囲気に、多くのユーザーは惹きつけられています。
例えばキャンプに使うアイテムの多くは、機能や携行性を優先させて、虚飾は一切排除したデザインものが多いのではないでしょうか。
アウトドアストープがその最たるものです。バーナーとゴトク、そしてツマミくらいのシンプルな構造ですが、なぜかワクワク感を呼び起こすデザイン性があります。
そこには無骨で、エッジの立ったパーツが組み合わさったひとつの製品があるだけです。
テントや焚火台こそ美しさを追求した製品もありますが、大抵のアウトドア用品は機能が優先。
ユーザーが魅力的と感じる部分は、機能性を追求した結果なのです。こうした部分は、最近のカクカク系のクルマに共通していると言えます。
ジムニーやランドクルーザーのカタチ、四輪駆動車本来の機能追求を行ったデザインを造り、最後に外連味を足しているように見えます。
さらにヒットしているカクカク系のクルマに言えるのは、ピカピカしたメッキパーツを使っていないことです。
例えば、かつてのランドクルーザー70は、高級感を少しでも演出するためにメッキパーツを多用していました。
1年間再販されたモデルでも、フロントグリルなどにメッキを施しています。
ジムニーも先代までは、グリルをピカピカにしている特別仕様車が販売されました。
しかし、昨今のカクカク系には“光り物”はほとんど使われていません。
シルバーの部分でもつや消し処理が施されており、加飾性はほぼゼロ。
逆に無塗装のブラックパーツを使うことで、やはり機能を強調しています。
無塗装のパーツは傷に強く、交換費用も塗装品に比べると安価。
いわゆるガードしての役割をアピールしているパーツで、人気のアウトドア系腕時計に共通する機能美を演出しています。
大ヒットしているカクカク系トールワゴンの三菱「デリカミニ」の開発陣も、メッキパーツを使わないことをデザイン上での留意点にしたと語っています。
多くのアウトドア系グッズは光り物のパーツは使われていないことが多く、どちらかという目立たないロービジカラーになっています。
こうしたアウトドア系グッズの特徴を自動車開発者はよく検証しており、ロービジボディカラー、ブラックアウトパーツの装着は定番となりました。
多くユーザーはおそらく、ジムニーやランドクルーザーの性能を100%使い切るような状況にはなりません。
ただし、そういった状況を乗り切ることができる性能を愛車が持っている、もしくはそういう性能が見た目に現れていることが大切なのではないでしょうか。
そしてその心理の奥には、快適や無駄の排除ばかりを追求したクルマにはもう飽きてしまったという気持ちがあるような気がします。
兵器という究極の道具だったJeepだけが持つ機能美が多くの人を惹きつけたのと同様に、カクカク系SUVもまた無駄を排除して最難関の状況に挑む性能をカタチで体現しているからこそ、便利になり過ぎた世の中でロマンが語れるクルマとしてユーザーから注目されているのかもしれません。
Writer: 山崎友貴
自動車雑誌編集長を経て、フリーの編集者に転向。登山やクライミングなどアウトドアが専らの趣味で、アウトドア雑誌「フィールダー(笠倉出版社刊)」にて現在も連載中。昨今は車中泊にもハマっており、SUVとアウトドアの楽しさを広く伝えている。
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