クルマの“謎”ステッカー「県内在住です」そういえば最近どこいった!? “自粛警察”がもたらした「一定の効果」とは
クルマの後部などに「県内在住です」というステッカーを貼ったクルマを見たことはあるでしょうか。こうしたステッカーを貼らざるを得なくなった事情とその収束に至る過程について振り返ります。
突然世界を襲った「緊急事態」の時代に現れた「“謎”ステッカー」
街では「BABY IN CAR」や「ドライブレコーダー録画中」、神社やお寺で売られている「交通安全」、アウトドアブランドやクルマのアフターパーツメーカーのロゴなど、さまざまなステッカーを貼りつけているクルマを見かけます。
近年では「県内在住です」というステッカーを見かけた時期がありました。すっかり昔のハナシのようで忘れてしまいましたが、どのような目的があったのでしょうか。
時代が令和に切り替わり、およそ1年後に襲った新型コロナウイルスの蔓延。
未知のウイルスによる影響は甚大で、日本では2020年4月7日に緊急事態宣言が発令され、我々は行動制限を余儀なくされました。
移動は県内まで、県境をまたぐ移動はできるかぎり控えるようにと、不要不急の外出や移動に対し「自粛」の要請が国や自治体などから出されたのです。
この際、にわかに警戒感を強めたのが、現在の居住地とは異なる「他県ナンバー」を装着しているクルマの所有者たちでした。
他県ナンバーのクルマが、「ダメだといわれているのに県境を越えている」「コロナウイルスを広げる行動をしている」として、あおり運転や嫌がらせの被害に遭うというトラブルがあちこちで頻発したためです。
突然に我々を襲った未知の感染症に対する過剰な防衛反応や、誤った正義感がもたらした弊害のひとつといえるでしょう。
その対策として広がったのが「他県ナンバーですが、県内在住です」などと書かれたステッカーでした。
また自治体によっては、自治体が県外ナンバーのクルマを利用している人に、クルマのダッシュボードに表示できるよう、「県内在住確認書」の交付をしたところも。
クルマの保管場所(駐車場)が変更になった場合、クルマの保有者は、変更した日から15日以内に、変更後の保管場所の位置を管轄する警察署長に、当該車両の使用の本拠の位置、変更後の保管場所の位置その他政令で定める事項を届け出なければならないと、法律で定められています。
そのため、転勤などによって引っ越しをした場合などは、在住する都道府県内のナンバーを装着しているのが原理原則ではあります。
ただ手続きには手間や費用がかかることや、他県にいても車検を通すことはできることなどから、引っ越しをしてもただちに保管場所の変更をしないという人も少なくないのが実情といえます。
しかし、定められた届け出を速やかにしていなかったとしても、嫌がらせをしても良い理由にはなりません。
なかには、医療派遣などやむを得ない事情で一時的に他地域から移動してきた人もいるかもしれないのです。
今思うと県内在住ステッカーは、未知のウイルスがもたらした嫌悪や偏見、差別に対し速やかに対抗するための「奇策」だったといえます。
そしてこの件があって以降、「慌てて保管場所変更の届け出をした」「ナンバーを変更した」という人も多かったのではないでしょうか。
その意味では今回の騒動にも、一定の効果があったのかもしれません。
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2023年5月、WHO(世界保健機関)が緊急事態宣言の終了を発表してから1年近くが経過し、すっかり「県内在住」ステッカーを貼っているクルマを見かけることがなくなりました。
このようなステッカーを貼らなければならなかった当時の殺伐とした空気感を思い出すと、改めて日常が戻って本当に良かったと感じます。
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