トヨタ「ウィッシュ」なぜ消えた? 大ヒットした「背の低いミニバン」だったのに… 生き残れなかった理由とは
かつてトヨタは、背が低いミニバンの「ウィッシュ」を販売していました。2世代にわたって進化したものの2017年に販売終了したのですが、なぜウィッシュは廃盤になってしまったのでしょうか。
ホンダ「ストリーム」の人気を受けて投入されたトヨタ「ウィッシュ」
一時期は販売台数ランキングの上位に食い込むほどの人気を見せていたにもかかわらず、気づけばモデル自体が消滅してしまった、というモデルは意外と存在しています。
なかでも2003年にデビューしたトヨタ「ウィッシュ」は同年の年間販売台数ランキングで3位にランクインし、そこから4年連続でトップ10圏内に存在し続けた紛れもない人気車種でした。
しかし、2017年に2代目モデルが終売すると後継車種も登場することなく、絶版となってしまいました。
一時は隆盛を極めたウィッシュですが、なぜ後継車種もなく消滅してしまったのでしょうか。
2003年1月に初代モデルが登場したウィッシュは、コンパクトな5ナンバーサイズを基本に3列シートを備えたミニバンとなっており、後部ドアはスライドドアではなくヒンジドアを備えていました。
近いコンセプトのモデルとしてはトヨタ「イプサム」が存在。イプサムは3ナンバーボディと背の高いパッケージでファミリーユースを中心に展開されていましたが、ウィッシュはスポーティなイメージに仕立てられており、ターゲットとするユーザー層が明らかに異なっていました。
そもそもウィッシュは、2000年に登場すると瞬く間に人気車種となったホンダのミドルサイズミニバン「ストリーム」の対抗馬として投入されたモデルです。
1990年代にホンダ「オデッセイ」を追いかけて発売したモデルが及ばなかったトヨタとしては、同じ轍を踏まないようにと徹底的にストリームを研究。トヨタ渾身のウィッシュは、一時はストリームを超える人気となったのです。
そんなウィッシュは2009年に2代目へとフルモデルチェンジを果たし、初代のキープコンセプトのままデザインなどをよりシャープにするなど、時代に即した変更を実施。しかし初代ほどの人気を獲得することは叶わず、2017年に終売となりました。
なお、ライバルのストリームは2006年に2代目へとフルモデルチェンジを実施し、ウィッシュよりも早い2014年に終売となっています。
このように一時は人気車種となったウィッシュですが、人気に陰りが出てしまった最も大きな理由は、スライドドアを備えた背の高いミニバンの便利さにユーザーの多くが気づいてしまったということが挙げられるでしょう。
スライドドア車はドア開口部が大きく高さもあるため、ヒンジドアをくらべ3列目シートへのアクセスや2列目シートに備えたチャイルドシートに子どもを乗せるといった場面での使い勝手が大幅に有利です。
一度スライドドアの便利さを味わってしまうと、もうヒンジドアには戻れないと感じるユーザーが多かったことも関係していたのでしょう。
また、全高を低くしてステーションワゴン的な走りの良さが味わえるというのがウィッシュの美点ではありましたが、それでも立体駐車場に対応できる全高1550mmを超えており、その点での使い勝手に差がないのであれば、走りよりも室内空間の広さが優先されることが増えていたともいえそうです。
そしてヒンジドアはコストがスライドドアに比べて抑えられるというメリットもありましたが、2代目ウィッシュ登場時の価格を比べてみると、ウィッシュの「1.8X」が184万円だったのに対し、「ノア X(2リッター)」は203万7000円と20万円ほどの差しかありませんでした。
さらに、2リッターエンジン同士で比較するとウィッシュの「2.0G」が226万円と、ノアより高くなってしまい、ヒンジドアのコストメリットが薄くなってしまったということも影響したのは間違いないでしょう。
つまりウィッシュの人気が下がり消滅してしまったのは、ユーザーの趣向が大きく変化したことが理由といえ、実際、前述したウィッシュのライバルであるストリームも消滅し、オデッセイもヒンジドアからスライドドアに変わっていることがそれを裏付けています。
どんなものでも流行り廃りがあるのは仕方のないことですが、今は大人気のクロスオーバーSUVも過去の話になる時代がくるのかもしれません。
Writer: 小鮒康一
1979年5月22日生まれ、群馬県出身。某大手自動車関連企業を退社後になりゆきでフリーランスライターに転向という異色の経歴の持ち主。中古車販売店に勤務していた経験も活かし、国産旧車を中心にマニアックな視点での記事を得意とする。現行車へのチェックも欠かさず活動中。
トヨタのお家芸のパクリ車だったから興味なかった