新型「戦車」の開発期間はクルマ以上? ライバル不在の「90式戦車」とはなんだったのか

新戦車として登場した「90式戦車」はどんな存在だったのか?

 新戦車は日本でT-72と戦う為に主戦場と想定された北海道の地形、道路、橋梁、田畑から植生、市街地構成、気象環境など多くの要素がパラメーターとして検討が繰り返され、着手から3年後の1980(昭和55)年に開発要求書がまとめられました。

 アメリカのM1エイブラムスやドイツのレオパルド2といった「第3世代」と呼ばれる他国戦車の主砲は120mmを採用しており、新戦車の主砲は120mm砲、重量は50t以下、出力重量比は30hp/tでエンジン出力は1500馬力レベル、正面から120mm弾に耐えることなどが列国の「第3世代」に匹敵する性能が要求仕様に盛り込まれたといわれます。

 この要求に応える為技術の粋が集められました。例えば目標を照準するのに74式までは光学照準器を覗きこんでいましたが、90式では物体の発する熱線(赤外線)を捉えるサーマル映像装置のモニターで見て照準します。

 夜間でも使用でき、悪天候、煙幕やカモフラージュなどの影響も受けにくくなっています。

 さらに画像自動追尾機能が付き、ロックオンボタンを押すと画像が記憶され、お互い移動しても目標を追尾し続けることができます。

 この技術は現在では防犯カメラの顔認識追尾機能で広く使われるようになっています。

豪雪の中、隊列を組んで待機する戦車隊。みるみる雪が積もって自然の冬季迷彩になっていく。(撮影:月刊PANZER編集部)
豪雪の中、隊列を組んで待機する戦車隊。みるみる雪が積もって自然の冬季迷彩になっていく。(撮影:月刊PANZER編集部)

 また主砲弾の自動装填装置が採用されたのも特徴です。先に紹介した目標ロックオン機能により主砲は目標を狙い続け移動中でも装填でき、行進間射撃が可能になりました。

 手動装填では行進間主砲が目標を指向し続けていると砲尾が不規則に動き回り装填手は危なくて装填できません。それまでは停止して射撃するのが普通でした。

 こうして日本の技術力の粋を集めて完成した90式戦車は他国の「第3世代」戦車に勝るとも劣らないスペックを実現。2010(平成22)年の3月で調達終了まで341両が生産されました。

※ ※ ※

 結局ライバル不在となった90式は無駄だったのでしょうか。

 90式が生まれたときは冷戦が終結し平和な時代が来て「賭け」は外れたように見えます。

 しかし、平和な時代とは次の戦争の準備期間、という現実を再確認させられると、実は「賭け」は当たっていたのではないかとも思えてきます。

 確実にいえるのは次世代の10式戦車に繋がる技術伝承という役目を果たしたということです。

 先に紹介した画像自動追尾機能や自動装填装置などはさらに進化して10式のIT戦闘システムにも生かされ、複雑なスラローム射撃が出来るまでに進歩しました。「賭け」は当分続きそうです。

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