なぜ子供はクルマを「ブーブー」と呼ぶのか? そもそも「ブー」ってなんの音? 昔に比べて静かになった最近のクルマ事情とは
時代は変わっても「ブーブー」は死なず!?
ただ、「エンジン音説」も決して信ぴょう性がないものではありません。実際、道を走るクルマを表すなら「ブーン」という擬音語がぴったりなのではないかと思います。
しかし、「クラクションの音説」にしろ「エンジン音説」にしろ、現代では「ブーブー」という音からはかなり遠ざかっています。
クラクションの音は「プップー」が有力と考えられますし、エンジン音は以前に比べてかなり小さくなりました。とくに、電気自動車にいたってはそもそもエンジン音すらなくなり、「キーン」というモーター音となっています。
このことから、近い将来、「ブーブー」という語は死語となってしまうのではないかという指摘もあります。しかし、これについても、筆者は言語学的観点から否定できると考えています。
多くの場合、赤ちゃんがはじめて話す言葉は「ママ」や「パパ」といわれています。これは、赤ちゃんにとってもっとも身近な存在であることもありますが、それ以上に赤ちゃんにとってもっとも発音しやすい言葉であるという側面もあります。
赤ちゃんは、具体的な言葉を話す前に「喃語(なんご)」といわれる「言葉以前の言葉」を話します。
代表的なものに「バ、バ、バ」というものがありますが、この両唇をくっつけて出す「ba」という音は、赤ちゃんがもっとも発音しやすい音のひとつです。
1950年代から1960年代にかけておこなわれた数々の言語研究では、世界中の言語の多くで父親や母親を表す言葉に使われているのが「ba」「ma」「pa」といった音だったことを明らかにしています。
「ブーブー」は、「ba」と子音(b)が同じであり、赤ちゃんにとって発音しやすい音であることがわかります。さらにいえば、「ブー」を2回繰り返すリズミカルな言葉は、赤ちゃんが好むものであるという研究もあります。
一方で、電気自動車のモーター音を表すような「キーン」や「スイー」などといった言葉は、1歳未満の赤ちゃんが発音しやすいものではありません。
このことから、例え街を走るクルマのほとんどが「キーン」や「スイー」という音で走る電気自動車になったとしても、われわれは「ブーブー」という言葉を使い続けるのではないかと考えます。
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口腔器官が未発達な赤ちゃんは、大人に比べて発音できる言葉に制限があります。もしかしたら、クルマの名前のなかにも、赤ちゃんが発音しやすいものとそうでないものもあるかもしれません。