フェラーリが放つ新型「812GTS」は耳で味わうV12エンジンの最終章か!?

オープンだからこそ味わえるV12の真骨頂

 それにしても快適だ。WETモードでも十分に12気筒エンジンの滑らかさを味わうことができる。むしろ、激速なわけではないので、その分じっくり味わえる。高いギアでじわじわ加速するときのエンジンフィールだって気持ちいいのだ。

 もちろん、サウンドはちょっとボケて聞こえる。突き抜けてこない。ゾクゾクするようなV12サウンドを聴きたいのであれば、やはりスポーツモードかRACEモードに切り替えてほしい。アクセルの反応も軽くなり、エンジンのレスポンスはもちろん、変速もいっそう小気味のいいものに変わる。

 そして、GTSならではの“V12サウンドお楽しみ法”を忘れてはいけない。リアガラスだけを下ろすことができる(いわゆるカリフォルニアモード)のだ。

 爆音サウンド好きのスーパーカー乗りはトンネルに入ると反射的に窓を全開にしてしまう。生で聴きたいからだ。けれどもトンネルで窓を全開にすると、空気は悪いし髪のセットもぐちゃぐちゃだ。隣に乗ってくれた理解ある女子にとって、音も臭も風も大迷惑には違いない。そんな時、カリフォルニアモードにできるオープンモデルであれば最高だ。なにせリアウインドウを下げるだけで快適なまま生音が手に入るのだから!

 筆者も今回、何度か眠くなった新東名のトンネルでリアウインドウを下げ、レースモードで一瞬の加速とサウンドを楽しんだ。もっとも、あっという間に非合法速度域に入ってしまうことが玉に瑕。

 スポーツモードでも以前のモデル(599あたり)に比べるとまだしも落ち着いている。そういえばそれより前の「マラネッロ」時代は本当によくできたグランドツーリングカーで、むしろスポーツカーとしての刺激がなかったほどだった。

 その反省を踏まえて登場した599は、だからスポーツカー然とした前脚の振る舞いを特徴としたわけで、その傾向は「F12」でも引き続きあったものだけれど、電動パワーステアリングを手に入れた812以降は、550風にも599風にもキャラ分けできるようになった。ひとつのボディで二兎を追うためにはシャシのみならずステアリング系統も電子制御するほかない。

●世界最高の2シーターFRグラントゥーリズモ

ルーフ形状は左右が隆起したトンネルバックスタイル。リアセクションはオープン化で損なわれたダウンフォースを補うため、ディフューザーの拡大など様々な最適化が施されている(C)横澤靖宏
ルーフ形状は左右が隆起したトンネルバックスタイル。リアセクションはオープン化で損なわれたダウンフォースを補うため、ディフューザーの拡大など様々な最適化が施されている(C)横澤靖宏

 マラネッロは2シーターのフラッグシップ12気筒モデルを一応スポーツカーに分類している(=試乗会をフィオラーノでおこなう)。けれども超優秀なGTであることもまた間違いない。筆者は以前にも812スーパーファストで2000kmのドライブを楽しんだが、とにかく移動そのものが楽しくてしょうがないのだ。

 淡々とクルージングする時の手足と腰に伝わるフィールや、猫なで声に聞こえる心地よいサウンド、ひとつまみ&ひと踏みで劇的に変わるキャラクター、飽きるということがないから、どこまででも一緒に走っていきたいという気持ちになる。

 こんなGT、そうそうあるものじゃない。否、その魅力の根源がフロントに積んだ自然吸気12気筒にあると考えれば、まさに唯一無二。812シリーズでしか味わえない経験だ。そう、世界最高の2シーターFRグラントゥーリズモである。

 812GTSの魅力は、そんな最高峰GTでありながら、ひとたびワインディングロードに繰り出せば爽快なオープンスポーツカーへと変身するところにもある。愉悦の12気筒サウンドと穏やかな陽光、香る風をめいっぱい浴びながらのドライブは、まさに至福の時という他ない。もちろん、スポーツカーとしての嗜みもまた超一級で……。

 高速道路やワインディングロードでマシンとの一体感を確かめたのちの街中ドライブは、いっそう思いのまま動く気がして、これまた扱いやすく、どこへでも連れて行きたくなるのだった。

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