アートなフルラッピングの価値は700万円! なぜポルシェ「タイカン4S」がオークションに

電動モビリティである「タイカン」だからこそモチーフをネイチャーに

 フィリップスをタイカン4Sのアートカー製作へと導かせたのは、ディートリッヒに対する彼の深い敬意、911RSRでの自動車のフォルムへアートをトランスレートした過去の経験、そしてポルシェとの個人的な関係であったといってもよいだろう。

●2020 ポルシェ「タイカン4S」アートカー by リチャード・フィリップス

リチャード・フィリップスにとっては2台目となるポルシェのアートカー(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's
リチャード・フィリップスにとっては2台目となるポルシェのアートカー(C)2021 Courtesy of RM Sotheby's

 だがこのアートカーの製作は、最初に考えられていたほど簡単なものではなかったと、フィリップスは後に語っている。

「ル・マン24時間レースでの911RSRのような具象的なイメージは、電動モビリティやサステナブル、環境問題という点で相応しくないと考えました」

 しかし、ディートリッヒとの関連性を持つ『夜の女王』が、その解決策になったという。それは、オールエレクトリックであるというタイカン4Sがキャンバスとなるため、絵のモチーフが草花のような自然のものである方が相応しかったのである。しかしそれを単に立体的なタイカンのボディに移すだけでは、まだ完璧ではなかったのである。

「私が最初に作成したスケッチは、文字どおりクルマの上に絵のモチーフとなる静物を置いただけでした。しかし、タイカンのようなダイナミックなクルマには、すこしばかり静止しすぎた感がありました。そこでアイデアを再考したのです。描かれた元の絵画と比べて大幅にスケールを拡大し、スピード感を表現するために、クルマの輪郭を横切って流れていくような要素にする必要がありました」

 フィリップスによるタイカン4Sアートカーは、文化遺産に囲まれたチューリッヒという歴史的都市と雄大な自然の風景のなかの両方に響き渡る存在である。

 夜の女王と呼ばれる夜咲きのサボテンと、蝶でいっぱいの空色のパッチとの劇的なコントラストは、クルマが停止している時でも独特な動感を表現している。

* * *

 このタイカン4Sアートカーは、2021年4月13日までRMサザビーズのオンライン・オークションで競売がおこなわれた。その収益金は新型コロナウイルス感染拡大によって被害を受けた、スイスのアーティストを支援する目的で非営利団体に寄付されている。

 また落札者には、通常は非公開のタイカンのシュツットガルト・ツッフェンハウゼン工場を、タイカンモデルシリーズの責任者とともに見学できるツアーも提供されるという。

 このアートカーではほかに、「Queen of the Night」が刻まれたイルミネーションドアシルパネルや、ドアが開いた時にフィリップスの署名を照らし出すドアプロジェクターなど、ポルシェ エクスクルーシブ マヌファクトゥールの演出が施されている。

 落札価格は、20万ドル(邦貨換算約2180万円)であった。タイカン4Sの日本での新車価格が1448万1000円であることを考えると、純粋にアートカーの価値として700万円ほどのプレミアがついたことになる。

 ちなみにこのタイカン4Sは、ヒロヤマガタがかつて手がけたアートカーとは違い、ペイントではなくフルラッピングで仕上げられている。

【画像】ポルシェ「タイカン」をキャンバスにしたアートカーを鑑賞する(40枚)

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