夢のトランスミッションとまでいわれた「DCT」はなぜ普及しない? ATが主流の理由とは
AT限定免許を持っている人が運転できるのはオートマ車と呼ばれる2ペダル車だ。2ペダル車のなかにも、トルコンATやCVT、AMTなどがあるが、そのなかのデュアルクラッチ式トランスミッション(DCT)は、伝達効率や素早い変速レスポンスで、登場当初は「夢のトランスミッション」ともてはやされた。いま、現状はどうなのだろうか。
DCTにはメリットがあるがデメリットもある
クルマのトランスミッションには、さまざまな種類がある。
そんななかで、もっとも古くからあるのが「MT(マニュアル・トランスミッション)」だ。これはアクセル/ブレーキの他に、変速のためのクラッチと、ペダルが3つある。
そのクラッチペダルを廃して変速を簡便にしたのが、自動変速の代表格となる「AT(オートマチック・トランスミッション)」だ。これは遊星ギヤを使ったトランスミッションで、別に「ステップAT」とも呼ばれる。
さらに1980年代以降、日本の小排気量車に採用が広まったのが「CVT(Continuously variable transmission)」だ。これはベルトをかけたふたつのプーリーの直径を変化させることで無段階変速を実現するため「ベルト式無段階変速機」とも呼ばれる。
そして2000年代に入って登場した新顔が「DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)」だ。
これはその名のとおり、ふたつのクラッチを内蔵するトランスミッションで、優れた伝達効率と素早いシフトチェンジを実現した。
ATにおけるトルクコンバーターやCVTが、構造上避けて通れない「内部伝達でのロス」とは無縁で、かつMTでの「クラッチやシフトの操作」という面倒をなくしたトランスミッションのため、登場当時は「夢のトランスミッション」と高い評価を得ている。
ところが登場から20年近い時間が経っても、その普及はVW「ゴルフ」や「ポロ」など、アウディ「A3」や「Q2」など、メルセデス・ベンツの「Aクラス」など、欧州車の一部のモデルに留まっている。意外や、採用が広がらなかったのだ。またホンダ「フィット」も先代モデルは7速DCTを採用していたが、現行型ではCVTに戻っている。
高い評価を得ながらも、このように採用が広がらなかったのは、どういった理由があったのだろうか。
まず、いえるのはDCTにも弱点があるということだ。
それはステップATとの違いの部分に起因するものが大きい。ステップATにあってDCTにないものは、トルクコンバーターだ。トルクコンバーターは、変速を滑らかにし、エンジン・トルクを増大させる機能を持つ。そのため、とくに発進時や低速走行での走りが滑らかになる。
一方、それを備えないDCTは、低速でのストップ&ゴーの動きがギクシャクしがちだ。しかも低速域でのストップ&ゴーはクラッチの負担が大きく、耐久性も不利になる。
さらにギア比が固定なので、無段階変速のCVTと比べると、エンジンの美味しい部分を使いにくい。エンジン負荷に対してもっとも効率のよいエンジン回転数の分布を、いわゆる“燃費の目玉”と呼ぶ。小排気量エンジンほど、その燃費の目玉が小さいため、燃費をよくするためには、緻密な変速制御が必要となる。
CVTは、そうした制御がもっとも得意とするところ。つまり、小排気量エンジンなのに好燃費を求められるという条件があるため、日本ではCVTが広く採用されているのだ。
ISUZUのスムーサーFのような多板式やバイク用のクラッチではトルク抜けは免れないだろうけど、ぶっ壊れる可能性は多少は減るのかな?
確かに先代フィットHVは発進時にクラッチがしゃくる感覚があるのだが?何せ初代のISUZUのNAVI5のようなドライビングロボット感覚でよいのではないかな?
これは私個人の感覚としては直結のまま無段階に加速するミッションならNISSANのエクストロイドが真打ちだと思うのだが?
メーカー様々で味付けは違えどUDトラックスのエスコットなんて理想に近い考え方とセッティングだと思うけどな。
トルク抜けを妙に封印しようとせずとも良いとは思うけど、やはり商品力に欠けるのかね?
昔ヤナセとISUZUで共販していたFRのJRピアッツァにNAVI5が用いられなかったのはFRだったからか?プライド?かは分からないけど良い技術が半煮えで消えるのは悲しな。
記事を読んで少し理解できないことがあったので質問します。
トルクコンバーターには内部伝達のロスがあるとのことですが、エンジン・トルクを増大させるのはどういう原理ですか。またDCTの多段化は確かにスペース面では不利なのは理解できますがそれは対CVTでは理解できますが、対トルコンATでも不利なのはなぜですか。機械系でないためミッションには詳しくないので分かりやすく教えてください。
流体を介して動力を伝えるためにエンジン側の羽(ポンプインペラー)と変速機側の羽(タービンランナ)には常に回転差があります。イメージとしては定速走行でポンプが100回転のところタービンは85とか90回転という感じです。回転差は発進時や加速時に大きくなります。回転差が大きい時にはポンプの生み出したエネルギーがタービンを回そうとしますが回した後もエネルギーが残っていて、エネルギーの向きはポンプの回転と逆方向になります。このエネルギーをポンプの回転方向に、何らかの方法で向きを変えてあげると共にポンプが生み出す新たなエネルギーに加算してあげれば10の力を例えば11にしてタービンに当ててあげることにより、より力のあるエネルギーでタービンを回転させることになる、つまり動力を増幅するということになります。これがトルクコンバーターの増幅作用とか、トルク変換作用と言われる考え方です。
実際のトルクコンバーターでは、ポンプとタービンの間にステータと言われる、一方向にしか回転しない、第三の羽があります。ポンプとタービンの回転差が大きい時には、ステータの回転は停止させられ、タービンから戻ってきた余りの、逆方向のエネルギーを受け止めてエネルギーの向きをポンプの回転方向に変える役割をします。ポンプとタービンの回転差が少なくなり、トルクコンバーター内の流体(ATF)の流れが安定してくると、ステータも、ポンプやタービンと同方向に回転を始めます。再度回転差が大きくなるとステータの回転が止められ、トルク変換作用起こります。
余談を二つほど
①トルコンATで定速からアクセルペダルをふみこみ、実加速が少し遅れて起こるのは、回転差が起こりステータの動きが抑制され、トルク変換作用が起きて、その効果が現れるまでの時間差となるのですが、加速が良くないと、さらにアクセルを踏み込むとトルク変換作用が二重に発生するので、結果として今度はドライバーが求めている加速よりも強い加速力が起きます。遅れて加速力がついてくることを理解しているとアクセルの踏み込みを抑制することにもなるので燃費の向上にもつながります。
② むかーし、ホンダマチックというトルコン式のATがありました。Dレンジの代わりに⭐スターレンジというポジションで前進するのですが、変速機によるギアチェンジがありませんでした。⭐にすると変速比1.0の直結ギアが選択され、トルクコンバーターのトルク変換比率を高く設定したことで発進から加速 定速走行までをカバーするものでしたが、発進が緩慢、トルク変換比率を通常のものよりも1.5倍程度大きく設定したことにより、動力伝達効率もさほど大きくなかったことから、自然淘汰してしまったのですが、変速制御に必要な複雑な油圧機構や複数の歯車を必要としなかったため低コストで小排気量車のオートマチックトランスミッションの普及率に貢献した、と言われています。