「F40」とほぼ同額! なぜ地味フェラーリが1億4200万円もするのか?
日本生息歴のある超レアものフェラーリの評価は?
RMサザビーズ「ARIZONA」オークションに出品されたフェラーリ250GTボアーノ製クーペ、シャシNo.「0613GT」は、フェラーリ・クラシケの資料によると11月7日にローリングフレームとしてカロッツェリア・ボアーノに送られてボディを架装。翌1957年1月中旬までにマラネッロに戻され、1月22日にラインオフしたという。
●1956 フェラーリ「250GT アロイ クーペ by ボアーノ」
仕向け地はアメリカで、かのルイジ・キネッティが率いたニューヨークのディーラーを介して、タバコ業界のビッグネーム、ジョージ・アレンツのもとに納車。その目的はアレンツ所有のチームでレースに使用することだった。
そののち複数のオーナーのもとで米国内のレースに参戦し、クラス優勝を含む戦果を挙げた0613GTは、1960年に大西洋を渡り、長らくイギリスで過ごすことになった。
そして1985年、全世界に名を知られる英国ワトフォードのフェラーリ専門店「DKエンジニアリング」によって初のレストアを受けて表舞台に姿を現すまで、1963年から1982年の間、複数のオーナーのもとを渡り歩いた。その歴代オーナーのなかには、伝説のロックバンド「クリーム」をエリック・クラプトンたちと結成し、ベース&リードボーカルを担当した世界的ベーシスト、ジャック・ブルースも含まれているという。
そしてDKエンジニアリングは、ロッソ・コルサのボディにベージュのインテリアの組み合わせで新たに復活した250GTボアーノを、1986年に日本のコレクターへと売却。2002年にアメリカへと再び輸出されるまで、日本で過ごしたとされている。
約40年ぶりにアメリカに舞い戻った0613GTは、幾人かのオーナーたちが保有しつつコンクール・デレガンスなどで輝かしい成果を上げた。その間に再びレストアを受け、アメリカのレースを闘った現役時代を思わせるダークレッドにリペイント。2008年には発足して間もない「フェラーリ・クラシケ」の認証も取得している。
また、2011年から2016年の間に所有した元オーナーは、クラシックカーのラリーイベントに参加するために、約20万ドルを投じて大切に維持されていた。
また消火システムやヘッドレスト、布張りのロールバー、4点式シートベルトなど、ラリー参加に必要なセーフティ装備も施されるとともに、現在の魅力的な2トーンカラーにリペイント。その情熱の成果として、アメリカを代表するふたつのラリーイベント「カリフォルニア・ミッレ」と「コロラド・グランド」の双方で大きな注目を浴びた。
そして2016年に、今回のオークション出品者である現オーナーに譲渡され、2019年には一流コンクール・デレガンス「ザ・クエイル モータースポーツ・ギャザリング」に出品されている。
この非常にレアかつ魅力的で、ドキュメントも豊富な250GTボアーノは、現在6万6700マイル(約10万7000km)の通算マイレージを示している。前述の「フェラーリ・クラシケ」レッドブックや書籍、メンテナンスの請求書、ツールキット、スペアのボラーニ社製ワイヤーホイール、サービスマニュアルなども添付され、120万-140万ドルのエスティメートが提示されていた。
そして1月22日の競売では135万2500ドル、日本円に換算すれば約1億4200万円で、無事落札に至ったのだ。この落札価格は、2020年の「シフトモントレー」で落札された「F40」の138万6000ドルとほぼ同額である。
ここ1-2年で、ごく一部の「スペチアーレ」ものを除く現代のフェラーリが軒並み価格下落しているのに対して、正真正銘のクラシック・フェラーリのマーケット感は、2021年も堅調であることを示す結果ともいえるだろう。
* * *
ところで、今回のオークション記事を書くにあたって、ふと筆者の脳裏をよぎったのは、1997年のイタリア本国版「ミッレ・ミリア」の記憶である。
この年、1930年型アストンマーティンで初参加したエントラント某氏のサポートメンバーとして、初めてミッレ・ミリアに参加した筆者は、鮮やかなロッソ・コルサにペイントされたフェラーリ250GTボアーノを日本から持ち込んでエントリーした、関西地方在住のコンビとご一緒したのだ。
ボアーノ製250GTクーペは、ピニンファリーナ製の250GTよりも遥かにレアなはず。日本に居たことのある個体がほかに存在したという情報は、少なくとも筆者は持ち合わせていない。すなわち、四半世紀前にイタリアでご一緒した250GTボアーノは、今回の出品車両そのものである可能性が高いということになる。
あの時とは姿を大きく変貌させたとはいえ、記憶の片隅に残っているフェラーリが、遠く離れたアメリカでスポットライトを浴びたこと。また、往時のイメージとはかけ離れた高価格で取り引きされたことに、なにやら不思議な感慨を覚えてしまったのである。
コメント
本コメント欄は、記事に対して個々人の意見や考えを述べたり、ユーザー同士での健全な意見交換を目的としております。マナーや法令・プライバシーに配慮をしコメントするようにお願いいたします。 なお、不適切な内容や表現であると判断した投稿は削除する場合がございます。