なぜトヨタはSUVで攻める? ハリアー&ライズ大ヒット! 市場席巻の戦略とは
怒涛のSUV攻勢はかつてのミニバン拡充期と似てる!?
先代ハリアーの成功は、トヨタがSUVを充実させる起爆剤になりました。そこで前述のようにSUVをそろえていきます。
このやり方は、トヨタがミニバンを充実させた2000年代に似ています。
ワゴン風ミニバンのホンダ「ストリーム」が登場したらトヨタは「ウィッシュ」、燃料タンクを前席の下に搭載する「モビリオ」がホンダ投入されたらトヨタは薄型燃料タンクの「シエンタ」、日産「エルグランド」には前輪駆動化して質感を高めたアルファードという具合に、対抗車種をそろえてミニバン需要を吸収しました。
トヨタは、新しい市場が形成されるときには注意深く観察しながら動向を見定め、車種を一気に充実させて攻め込みます。
トヨタは古くからSUVを手掛けていましたが、ハイラックスや日産「テラノ」が人気を高めたオフロードSUVの時代と、CX-5やフォレスターなど前輪駆動によるシティ派の時代では、需要構造も違います。トヨタはシティ派SUVを新しい流れと捉えて、車種構成を再構築したのです。
このような経緯もあり、RAV4は国内販売を一時中断。ハリアーも短期間でしたが、2013年に中断した期間があり、ここでトヨタの国内SUV戦略が転換したと考えて良いでしょう。
トヨタがSUVを次々と発売するのは、このカテゴリの需要が今後も長続きするからです。SUVは厚みのあるフロントマスクや大径タイヤによって外観に存在感があり、居住空間と荷室はステーションワゴンと同等かそれ以上に広いです。
カッコ良くて実用的なので、多くのユーザーが魅力を感じて売れ筋カテゴリになりました。
しかもSUVは、ランドクルーザーのような後輪駆動ベースのオフロード派から、C-HRのような前輪駆動ベースのシティ派まで、いろいろなタイプを用意できます。
共通化された前輪駆動のプラットフォームを使った場合でも、複数の車種を構成でき、開発のしやすさもSUVのメリットです。
今後のトヨタの戦略は、空間効率に優れ、価格を割安に抑えられる前輪駆動ベースのSUVを豊富に用意することです。
具体的には、BセグメントSUVのシティ派はヤリスクロス、オフロードSUV風のアクティブ派はライズで、CセグメントSUVはシティ派がカローラクロス、アクティブ派はC-HRとなります。
DセグメントSUVはハリアー、RAV4というように、各サイズに2車種ずつ、指向性の違うSUVをそろえて合計6車種とします。
そして別枠で、後輪駆動ベースのオフロードSUVとなるランドクルーザーと「ランドクルーザープラド」を用意。ピックアップ4WDのハイラックスも含めると、SUVは総勢9車種です。
他メーカーの動向を分析したうえで品ぞろえを充実させ、SUVのニーズを一気に引き受ける戦略です。
トヨタは2020年5月1日から国内の全店で全車を扱う体制に移行しました。
約4600店舗(日産やホンダの2倍以上)が一斉に扱うため、人気車は売れ行きを伸ばしますが、その一方で不人気車は、従来以上に落ち込んでトヨタ内部で販売格差が進行するでしょう。
この動向も踏まえて、トヨタは姉妹車を中心に車種の削減を進めます。アルファード/ヴェルファイア、ヴォクシー/ノア/エスクァイアなどは、ひとつの車種に統合します。
プレミオ/アリオンは、発売から13年を経過して売れ行きも下がり、このまましばらく販売を続けて廃止する可能性が高いでしょう。
ポルテ/スペイドは、発売から8年を経過して売れ行きが伸び悩み、車両の性格はルーミー/タンクと重複します。SUVのラインナップが充実する一方、ほかのカテゴリでは、ユーザーの選択肢が制限されます。
これらの整理を進めると、最終的には商用車を含めて(軽自動車は除く)、国内で扱われるトヨタ車の車種数は30車種程度になります。この内の9車種がSUVですから、ラインナップ全体の30%を占めます。
マツダはOEM車を除いた8車種の内、4車種がSUVと、ラインナップの半分を占めています。トヨタにはミニバンもありますから、売れ筋カテゴリのSUV比率が30%ならバランスは良いでしょう。
トヨタがSUVを充実させて売れ行きを伸ばすと、ライバル車も対抗せざるを得ません。商品改良や特別仕様車の追加などがおこなわれ、SUVの市場はますます活性化して買い得になっていくことが予想されます。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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