プロの仕事の流儀に迫る!ベントレーに魂を吹き込む職人たちの素顔とは?
ベントレーのすべてのモデルは、英国クルー工場で手作業によって組み立てられている。これを支えるのが、伝統のクラフツマンシップだ。今回は、ベントレーを支えるさまざまな人をご紹介しよう。
ベントレー・モーターズを支える「人」
英国にあるクルー工場ですべてのモデルが組み立てられるベントレー。それらは伝統のクラフツマンシップに支えられ、手作業によっておこなわれる。
そんなベントレーを支えるさまざまな人を紹介しよう。
●トリムを作り続けて50年
現在ベントレー本社で最も勤続年数の長い社員は、インテリアのトリムなどを担当する「コーチ・トリマー」のノエル・トンプソンだ。入社は彼が16歳だった1969年9月1日で、2019年の9月1日に勤続50年となった。
トンプソンは50年前、60人の見習い社員の1人としてクルー工場で働き始めた。そして入社から12か月間は、主にエンジニアリング部門のさまざまな部署を回るローテーショントレーニングを受けた。
ちなみにこのトレーニング制度は今でも続いており、高い技能を持つ職人を何人も育てている。実は、トンプソンの父親もベントレーの工場で塗装を担当するクラフツマンの1人で、トンプソンの入社から22年間、同じ工場で親子2代にわたって仕事をするという幸運に恵まれていた。また、トンプソンの祖母も第2次世界大戦中は、クルー工場で働く社員だった。
トンプソンは、自身が入社した頃のベントレーの本社はまるで別の場所だったと振り返り、「私が勤め始めたころ、工場はすでに時代遅れとなっていました。車両のクレードルは手で押して移動させていましたし、床はコンクリートがむき出し。1940年代の防空壕も残っており、倉庫として使用していました。年間の生産台数も1800台ほどで、製造するモデルの種類も極めて限られていました」と、当時のことを振り返って語ってくれた。
1998年にフォルクスワーゲングループ傘下となってからの目覚ましい変化も目の当たりにしてきたトンプソンは、まさにクルーの生き字引だ。
エリザベス女王のステート・リムジンのトリムもトンプソンが手掛けるなど、確かな技術でビスポークにも対応してきた。
その、自身の長いキャリアについては、「私は信じられないくらい幸運でした。近年では一生の仕事に出会える人は極めて少ないと思います。私はさまざまな人たちと出会い、仕事を分かち合うことができてきたのですから」と述べている。
●研修生たちが手掛ける1920年代のエンジンレストア
ベントレー・モーターズの本社があるクルーでは、研修生たちを受け入れてさまざまな技術の習得に日々努力している。
その研修生たちが昨年、創業100周年の記念事業の一環として、1923年製エンジンをレストアする機会を得た。研修生たちがレストアを手掛けたのは、3リッター4気筒エンジン(エンジンNo.212)で、完全に分解された状態から再び組み立てるまでに700時間を要した。
彼らがレストアしたエンジンは、100周年のイベント会場に持ち込まれ、現代のW12エンジンの隣に展示された。
このレストアについて、研修生エイミー・デントンは次のように述べている。
「レストアに携わった全員が、このような重要な歴史の一部を扱う機会を与えられたことを光栄に感じています。私たちの将来のキャリアに役立つスキルと技術を習得できたと思います。私たちは組み立てを予定どおりに完了し、現在のW12エンジンの横に展示することができました。この100年間に、ベントレーの最高品質のエンジンがどれだけ進歩したかを明確に示していると思います」
ミュルザンヌを支えた「ミュルザンヌ メーカーズ」
ベントレーのフラッグシップモデルとして、2009年にペブルビーチ・コンクール・デレガンスで発表されたミュルザンヌは、間もなく生産を終了し、その役割をフライングスパーに譲ることになる。
このモデルを担当したクラフツマンたちは「ミュルザンヌ メーカーズ」と呼ばれ、コンチネンタルGTやベンテイガとは異なる製造ラインで7300台以上を世に送り出してきた。
ミュルザンヌの製造にはあらゆる技術が求められ、伝統的な技能や素材を使用したラグジュアリーとパフォーマンスの究極のコンビネーションを実現してきた。そんなミュルザンヌを支えた4人の想いを紹介しよう。
●クリスピン・マーシュフィールド(デザイン担当)
ミュルザンヌのエクステリアデザインを担当するクリスピン・マーシュフィールドは、次のように話している。
「ミュルザンヌには、プロジェクト立ち上げ時からのメンバーとして加わり、クレイモデルの製作から最終的な生産開発まで携わりました。今でも私が最も誇りに思えるプロジェクトのひとつです。
6.75リッターV型8気筒エンジンを搭載する最後のモデルでもあり、このエンジンは何世代にもわたるクラシック・ベントレーの系譜をたどることができます。まさにひとつの時代の終わりといえるでしょう」
そんなクリスピンは現在も未来のベントレーのデザインに携わっており、フリーハンドのスケッチからスーパーフォーミング加工までのデザインを担当している。
●クリスピン・マーシュフィールド(デザイン担当)
ミュルザンヌのボディ&トリムの責任者であり、ボディ製造およびキャビン全体の技術開発を担当するピーター・ゲストは、こう述べる。
「ミュルザンヌはエンジニアリングにおいて極めて野心的で、ボディ構造、電気系統、内外装のデザインを一新し、シャシやエンジン設計も大幅に見直しました。
工場では職人たちと協力し、設計したとおりのものを確実に生産できるようにするという難題を解決したことを覚えています。工場から出荷されるミュルザンを見るたびに、大きな誇りを感じたものです」
そんなピーターは、現在ベンテイガ、コンチネンタルGT、フライングスパーでも同様の役割を担っている。
●イアン・ジョンソン(ホワイトボディ担当)
ホワイトボディ部門で働く職人のひとりであるイアン・ジョンソンは、あらゆるバリエーションのミュルザンヌのボディを手作業で仕上げてきた。
「私は8年間、世界中のお客様のためにミュルザンヌのボディを製作してきました。そしてその期間に、伝統的な金属の仕上げや板金加工の技術を学び、発展させ、塗装部門へ運ばれる前にそれぞれにボディが極めて高い基準を満たしていることを確認してきました。このフラッグシップモデルに携わるチームの一員だったことを、本当に誇りに思います。
ミュルザンヌの終焉はひとつの時代の終わりを意味しますが、私は決して忘れませんし、ずっと語り継いでいきたいと思います」
そんなイアンは今後、ベンテイガに携わることになっている。
●ロブ・トンプソン(塗装「ペイントショップ」担当)
塗装部門で量産計画のマネージャーとして、40人以上のクラフツマンを率いてきたロブ・トンプソンは、間もなく引退する。しかし、彼の専門知識は残すことなく後輩たちに継承されている。
「入社して40年になりますが、ミュルザンヌという物語の最初から最後までの一翼を担ってきたことは、私自身の大きな誇りです。
2009年以来、ペイントショップを通過したすべてのミュルザンヌのボディに責任を負ってきました。私にとって、ミュルザンヌはベントレーの伝統と現代のボリューム時代への移行が完璧に融合した存在です」
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2020年4月に生産を終了する予定だったベントレー・ミュルザンヌは、新型コロナウイルスの影響でクルー工場が閉鎖されたことにより、生産期間の延長が決定している。また、ベントレーの英国本社はこのほど、地域の医療機関に2万セットの手袋とシートカバーの寄付をおこなった。
2020年3月20日からクルー工場の稼働を止めているベントレーだが、新型コロナウイルスの感染拡大を阻止すべく最前線で奮闘している医療関係者への協力を惜しまず、この危機をともに乗り越えていく考えを示している。
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