ミラネーゼが注目するGUCCIの壁画アートは誰が描いている?【イタリア通信】

ミラノの街を歩いている時に、または、ミラノのガリバルディ通りに、突如現れた建物の壁一面を使ったGUCCIのウォールアート。2ヶ月毎に新しいアートに描き直されるけれど、一体誰が、どのようにして、いつ描いているのか、気になりません?

コルソ・ガリバルディ通りのGUCCIの広告に目が離せない!

 ミラノの中央に位置するオシャレなブティックが並ぶブレラ地区。この辺りはアートやデザイン関係、流行のカフェ、Bar、ディスコ、レストラン等がひしめき合っているので、ミラノの夜を楽しむにはぴったりの場所でもある。そしてその地区の代表的な通りがコルソ・ガリバルディだ。

GUCCI pret-a-porter
GUCCI pret-a-porter

 私はこの通りをよく歩く。通りの両側に並ぶショーウインドウをぶらぶらと見て歩くのがとても楽しい。そして何よりも私のお気に入りは、GUCCI WALL ART。建物の壁一面に手描きで描かれているGUCCIの広告だ。印刷した広告はよく見かけるけれど、ここまで大きい手描きの広告となると目にすることは滅多にない。

 壁の前に立ってじっくり見ると、颯爽とした筆さばきがなんとも言えず気持ちが良い。なんたって迫力がある。私と同じように壁の前に立って、写真を撮ったり、話し込んだり、見とれて壁に微笑みかけている人も少なくないようだ。そのくらいインパクトがあるGUCCIの壁広告。

 そして素晴らしいことに、この「壁絵画」は2ヶ月毎に変わるという。いつも想像がつかないテーマなので、次はどんな絵になるのか、と、楽しみにしている。前を通る度に「この壁画はどのようにして描かれているのだろう? 制作中を見てみたいなぁ」といつも期待していた。

 去年の10月、夕方遅くにいつものうようにぶらぶらとコルソ・ガリバルディを歩いていると壁に足場が組まれており、男性が絵を描いているではないか! 念願の「質問」ができる。
 
 やっと絵描きさんに出会えた。思わず私は足場の下から大声で、「Buonasera(ボナセーラ)」と叫んだ。振り向いた男性は20代くらいの若い青年だった。
 
「すみません、お話したいのですが……」。すると男性は仕事はもう終わったからと、作業を止め足場から降りてきてくれた。「すみません、いつも通るたびにこの壁に見とれてしまって、いつかこの壁を描いている人に話をきいてみたいと思っていたんです。この足場初めて見ました」。若者は、微笑みながらいろいろと話してくれた。

仕事を終え、降りてきてくれたアーティスト
仕事を終え、降りてきてくれたアーティスト

●世界7都市で展開されるGUCCI WALL ART

──いつごろから、壁面にアートを描いているの?

 このGUCCIのプロジェクトは約2年前に始まって、今はミラノ、ロンドン、パリ、ニューヨーク、香港、上海、メキシコシティと、世界の7都市にGUCCI WALL ART があるんだ。大体2人でチームを組んで、各国同時進行で約14人のアーティストが制作しているんだ。

──壁に描く絵のテーマは、誰が決めているの?

 GUCCI本社から元絵が送られて来て、その絵を僕たち絵描きチームが壁に仕上げていく。僕は通常はロンドンで制作しているのだけど、今回は助っ人。僕たちはこれを約2週間で仕上げる予定。約2ヶ月毎に新作に取りかかるんだ。

──これを仕上げるにはかなりの技術力が必要になるのでは?

 そりゃあ、もちろん技術は必要。筆とエアーブラシを使って制作しているよ。
 
──このプロジェクトに入りたい人は沢山いるのでは?

 居るには居るけれど、なかなか難しい。世界中を回らなくてはならないから大変なんだ。体力的にもきついしね。

 それに、すでに技術を持っている人は自分の作品を描いているので、他人のための制作はしたくないんだよ。だから若い人が多いかな。このプロジェクトは描くだけではなく、いろんなこと学べるんだ。僕が学んだことは、技術は勿論のこと、チームワーク。

 プロジェクトはたくさんの人が関わって進めていかなくてはならないから、自分の分担に責任を持たなくてはならない。一人で仕事をしているとチームの感覚がないから自分の好きなように物事を進めてしまうことが多いんだ。準備段階から時間の体制が決まっているから、プログラムを立てるということがどんなに重要か、を勉強したよ、僕はこの仕事は大好きさ。

製作中、最後の仕上げ。この歯並びが悪さがなんとも強烈
製作中、最後の仕上げ。この歯並びが悪さがなんとも強烈

 因みにミラノのこの壁は176平米。通常の家の敷地面積よりずっと広い。

 第一号の絵は英国人のAngelica Hicksさんの作品だったという。なんとインスタグラムで発掘されたそうだ。さすが、飛ぶ鳥を落とす勢いのグッチのクリエーティブデレクターのアレッサンドロ・ミケーレは、時代の感覚を敏感にキャッチしている。

●道ゆく人がドキッとするアート

ここに歯の写真を入れた方が良いのでは? 上はまだ前の絵の話をしているところだから。

 そして今年に入って、またコルソ・ガリバルディをぶらぶら歩いていたら、今度は男性がクレーン車を使って絵を描いていた。しかも今度の絵のテーマが凄い。――口。壁一面に「歯並びが悪い女性の口」が描き出されていた。

 今回ほど衝撃を受けた絵はなかった。なぜこんな歯並びのモデルを選んだのだろう? 唇が濡れているようでとても生なましかった。

 遠くからでも見える大きな大きな口。街の中に突如、口が現れるものだから、皆立ち止まって見上げている。うーん、またしてもGUCCIにやられた(因みに今回は口紅の広告らしい)。

 そして今回もアーティストと話をすることができた。先日話したアーティストよりも年上のようで、30代くらい?

 彼は、クレーン車をひとりで調節しながら制作をしていた。クレーン車担当者もいたけれど、自分で動かした方が早くスムーズに仕事が進むのだろう。すべてひとりで調節していた。

 この壁画の制作工程は、先ずクレーン車を使ってGUCCIから送られて来た絵を壁に写していく。ある程度完成したら足場を組み、筆とエアーブラシで制作していくとのことだった。

 そして仕上げ前に足場をすべて外し、もう一度クレーン車を使って最終仕上げをおこなうそうだ。私が居合わせた時は監督のような人が来て、作品の出来にいろいろと指示をしている最中だった。

 自分の毎日の暮らしの中にある散歩道、そして自然と目に入るGUCCI WALL ART。

 チケットも時間帯も、何も気にすることなくアートに触れられる。次回の作品が楽しみだ。今度は下描きをしているところを是非、見てみたい。

【画像】GUCCIの壁画アートができるまで(10枚)

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