なぜ新型「ヤリス」が1000万円? 交通社会を管理するシンガポールの新車購入制度とは

シンガポールは交通をコントロールする国だった?

 筆者(桃田健史)はこの記事をシンガポールで書いています。滞在している理由は、ITS(高度道路情報システム)の世界会議の取材です。

 ITSとは高度交通システムのことで、世界会議には各国の政府関係者、バスや鉄道などの交通事業者、高速道路などの運営事業者、そして自動車メーカーなど交通に関わるさまざまな人たちが約1万人も参加しています。

 シンガポールは、マレー半島の先端にある小さな国。面積が東京23区とほぼ同じで、ここに中国系、マレー系、インド系など多様な民族が560万人も暮らしています。

 そうなれば当然、交通渋滞が懸念されますが、タイのバンコク、インドネシアのジャカルタ、そしてフィリピンのマニラなどの大都市と比べると、渋滞の度合いは低い印象があります。これが、COEの効果です。

 シンガポール政府が自動車の販売台数をコントロールすることで、市場に出回っているクルマの数をしっかり把握。その結果として、渋滞の緩和と排出ガス規制につながっているのです。

 ITS世界会議のセレモニーに登壇したシンガポール政府高官は「我が国はCOEや、ロードプライシングシステムによって、計画的な交通政策を成功させている。この知見をぜひ、世界各国で共有してほしい」と演説しています。

 ロードプライシングとは、市内中心部を通行する際、一般道でも平日の日中や夕方の交通混雑時に通行料を徴収する政策です。徴収には、三菱重工業が日本のETCを参考に開発した、ERP(エレクトリック・ロード・プライシング)が導入されています。

ETCを参考に開発した、ERP(エレクトリック・ロード・プライシング)
ETCを参考に開発した、ERP(エレクトリック・ロード・プライシング)

 それにしても、これだけクルマを買うために多額のお金が必要になれば、庶民がクルマが買えないのではないでしょうか。

 実情について、ITS世界会議に参加しているシンガポール人の複数に聞いてみました。

 それによると、やはりクルマは高級品というのが一般常識だといいます。シンガポールはバスや地下鉄が完備され、料金も安く、さらに最近では「グラブ」などライドシェアリングが急速に発展してきたので、クルマを持つ必要性が低くなったということです。

 とくに、30代半ば以下の人は「クルマを運転することは無駄」という意識を持っている人がとても多いという声を数多く聞きました。

 こうした状況は、狭い国土、多民族性、さらに政府の存在感が極めて強いシンガポールならではだと思います。

 日本で都心の渋滞がこれまで以上にひどくなれば、ロードプライシングはありかもしれませんが、COE導入は難しいのではないでしょうか。

 なぜならば、シンガポールには自動車メーカーの製造拠点がありませんが、日本の基幹産業の自動車業界を衰退させるような政策などはおこなえないからです。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。

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